ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

淡島百景 1

淡島百景 1

淡島百景 1

志村貴子のマンガにはいつも「流れていく時」が見える。初連載の『敷居の住人』は思春期と大人の端境にいる少年少女の恋愛模様を描いていたし、『放浪息子』はさらにそこに二次性徴を迎える男性が加えられている。「流れていく時」の概念がさらに重要な意味を持つのが『青い花』をはじめとしたいわゆる百合的な「女学生もの」だ。
淡島百景』もまた、「歌劇学校」を舞台とした「女学生もの」に数えられる。現実と創作、同性同士の恋愛感情といった、志村貴子作品で繰り返されるモチーフが端々に窺えるが、本作品で決定的に重要なのは、「淡島」という舞台そのものを中心に置いたことで、時間と視点の束縛からの解放されたことだろう。連作短編の形式で、視点を変え、時代を変え、それぞれの「淡島という舞台」が切れ味鮮やかに描かれ、折り重なっていく。外からの視点、男性からの視点まで交えて描かれる「淡島」は、青春時代を謳歌す少女たちの願いを乗せて、宗教的な色合いさえ帯びていく。特に、年老いた教師の視点からの語りは、歌劇学校という夢と現実の狭間を行き来する舞台を描いていることも相まって、強烈だ。
淡島百景』の語り口は、「歌劇学校」が女学生たちが大輪の花を咲かせ、やがて散りしていくサイクルを成立させる場であることを、これ以上なく突きつける。「流れていく時」の概念こそが、「女学生もの」というジャンルを下支えしているのだ。