ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

 

夢

  • 寺尾聰
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うーん、そうか……こういうところに行っちまうのか……いや、後期の黒沢映画はポツポツ見ながら「だいぶ遠くに行ったなあ……」という感じはしていたけれども、うーむ……

しかしなあ、こんなにも死の色が濃い作品になるのだなあ。単純に死を題材にした……とかではなくて、ちょっと転んだらそのままコテンとあっちの世界に行ってしまうような恐ろしさが全体に漲ってて、見ていて大変怖い。元々古典に題材を取る人ではあったのだろうけれども、こんなに必然性なく感覚優先でお出しされると参ってしまう。『パプリカ』の行進もワケわかんなかったけど、あっちはワケわかんない表現ということがはっきりわかっていたからなあ。こっちは完璧に夢。夢だわな。

その一方で原発がどうこういう、わかりやすいテーマの短編もあって、テーマは逆にホッとしたりもするけれども、あの過剰な富士山の爆発とか、すげえ望遠で距離感が捉えられない感じの海とか、なんかもう全然安心できねえもんなあ。ゴッホとかもうそこまでやっちゃうの? という感じだしなあ。

全体的にメタなところがある作品ではあるけれども、最終話の笠智衆の役柄にはさすがに笑ってしまうよね。そりゃもはや妖怪のたぐいだよねえ、年齢的に。

ブレット・トレイン

www.bullettrain-movie.jp

一瞬監督が「デビッド・リンチ」って見えてビックリしたよ。「デッドプール2」とか「アトミック・ブロンド」とかの監督なのね。なるほど。「ジョン・ウィック」も共同監督していたのか……

アクションには自信があるってことなんだろうけれども、あんまり閉所でのアクションがそんなに上手く撮れてたかっていうとよくわからんなーとは思う。リアルな新幹線とは少し違うリアリズムのズレみたいなのがびみょーに影響を及ぼしていたのかもしれないけれども、アクションのバリエーションやら見せ方があんまり好みじゃないなあ、という感じはした。

全体的に過去に行ったり視点を振ったりブン回し系の編集だけれども、それが鉤括弧付きの「いかにも」という感じであんまりピンとこなかったのもちょっとションボリだった。映像的に伏線がわかりやすく、タイミングを操る作者の顔が覗いてしまったのも悪かったのかなあと思う。原作はどうか知らないけれども、映像化されたらあんなキグルミわざとらしく出されたらねえ……ヘビのカミツキのタイミングも自在に操れるわけだしさあ。

あとまあギャグも全然ピンとこなくて、うーん……という感じ。劇場で見ると周囲と笑いのツボが違ってて困惑することってあるよね。洒脱にやろうとしているのはわかるし、そういう題材なのも理解するけど、自分には合わなかったなあ。

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命

 

このエピソード自体はドキュメンタリーで知ってて、「こりゃ映画化決定だな……」なんて思ってたんだけれども、まさか本当に映画化されてるとは思わなかった。そしてまあ映画になったら「映画化失敗だな……」と思ってしまった。だってこれドキュメンタリーの方が全然面白いんだもん。

いや、もちろん色々工夫しているのはわかるんだよ。なんだかんだ言っても史実の筋書き自体はまあわかりやすい感じではあるので、そこは普通にスルッと描いて、夫婦の危機に焦点を当てて、人間の善性とはなにかをテーマにしよう、という試み自体はわかる。わかるんだけれども、うーん……現実がすごすぎていまいちそっちのドラマがピンとこなかったかなあ。だって、我々は史実を知っているワケで、この映画では省略されているゲットーの悲劇的な生活とか、その後アウシュビッツやらダッハウやらに送られて行く未来をボンヤリ知ってしまっているわけで。年が字幕で出る度に「うおー、まだまだ解放が先過ぎて辛い……」みたいな気持ちになるわけで。そんな中で、浮気を匂わせる夫婦の危機を描かれても、うーん、あんまりピンとこないよなあ。

隠し事をする話なんだから、隠し事がバレそうになってハラハラドキドキ……みたいなシーンをもうちょっとちゃんと描けば良いのになあ、とは思った。そういうのって、なんだかんだいって大事だと思うんだよなー。

新書版 性差の日本史

 

話題に出たから買ってみたんだけど、あー、これはまさに図録を新書にしたって感じだわ。面白かったけれども、ちょっと想像していたのと違った。もう少しきちんと章立てしてじっくり時代の流れを明瞭なストーリーとして知りたかったんだけれども、これは時代ごとに点を置いてその間の線は結構こちら側に委ねられている感じ。これは実際に展覧会見に行った方が絶対良いヤツだなー。

とはいえ個別には面白かった点はたくさんある。いきなり卑弥呼の話になるわけだけれども、実は古い時代の方が女性が権力をふるう側面があった、みたいな話はなるほどなーと思った。「最古の職業が娼婦」説も、日本固有の社会的状況から否定していたのも面白かったなー。専門的職業になるためには貨幣経済の発達を待たなければならないワケね。

あとはまあなんと言っても、「展示」という形式から導かれる必然として、女性表象とその消費みたいな関係にも強く力点が置かれていたのは納得感があったなあ。今まさにホットな話題でもあるので、現代に繋がる視点でその辺りを追いかけられてなかなか興味深かったです。

カラーパープル

 

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  • ダニー・グローバー
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ウーピー・ゴールドバーグが! ほっそりしている! 体格の良いイメージが強かったのでビックリした。っていうか、盛んに「不細工」っていわれているけれども、全然美的感覚がわからんな……普通にかわいくないっすか? よくわからん。『天使にラブ・ソングを…』のパワフルなイメージが強かったから、こういう役柄をやられると一瞬誰だかわかんないですね。

映画としては、スピルバーグもこういう映画を撮ったんだなーとちょっと安心しますね。『シンドラーのリスト』以前、ヒューマンドラマへの転換期、って感じなのかしら? アメリカの黒人史をユダヤ人監督が取る……というアングルもなかなか微妙なところがあるけれども、マイノリティとしての社会の視線はしっかりある感じよねえ。鉄道敷設に黒人が従事させられた当たりのエピソードとか、やっぱりそこら辺は抑えるのね、という感じ。禁酒法もアメリカ史を振り返る上で避けられないポイントなんだろうなあ。

しかしまあ、映画としてはだいぶ散漫で退屈な感じだよねえ。アフリカというルーツやら宗教やらジェンダーの問題やら識字率やら、そこら辺の大変難しい要素が上手く焦点を結ばないまま時代が経過してしまっている感じ。明らかに脚本の失敗……ではあるんだけれども、それ以前に各シーンの映画的な面白さみたいなのもだいぶ減ってる感じはするよなー。ヒゲ剃りクロスカッティングとかは面白かったけれども、あそこだけ急に映画っぽい演出がぐい! とは言ってきた感じであんまり乗れなかったなー。

NEEDY GIRL OVERDOSE

whysoserious.jp

『ミッドナイト・ゴスペル』を観た直後だっただけに、結構ショックを受けている。

いやまあとにかく「良い感じ」ではあるんだけれども、その「良い感じ」の向こう側に見えた結末がこういうものだと、うーんいかにも今の日本のオタク界隈……という感じで結構厳しいなあ。

『ミッドナイト・ゴスペル』も、インターネット・テクノロジーとドラッグをテーマにした話だけれども、それらがスピリチュアルで自己探求のために利用されてるよね。他者にインタビューという形で関わることによって、己と社会の接点を探す物語になっている。サイケデリックなドラッグは、その橋渡しとして使われているわけだよね。

一方この作品は、同じ題材を扱っていながらも方向性が全く逆で、インターネットによって自己は拡散するし、ドラッグによって他者との接点は閉ざされる。主人公が女性として他者に消費されることで自己承認を得るという構造自体に、疑問を投げかけるような話にはなっていない。

その背景には、アメリカでのインターネットの発展がヒッピー文化の延長線上にあるという文脈もあるのだろうけど、それにしたって絶望的な気持ちにさせられるなあ。いやまあ、その絶望こそがこのヒロインの抱いている世界観そのものなワケで、それがこのような形でパッケージングされて消費されること自体は、確かに創作物としては正しい表現にはなっているのだろうけど……しかしなあ……うーん……

ガンマン無頼

 

うーん、キャラ立てってむつかしいなあ。

この主人公はひたすら強いんだけれども、その強さがキャラ感にそんなに紐付けられてないというか、全然感情が乗っていかないのはうーん……厳しい。謎の主人公の動機が瞳のクローズアップでビジュアルとして表現されるのは『ウェスタン』を思い出すけれども、あそこまでの外連味はないんだよねえ。あとまあ普通にクリント・イーストウッドやチャールズ・ブロンソンの顔面が強いというか、こちら側がその表情になにかを読み取ってしまう見え方をしてると思うんだけれども、フランコ・ネロは普通に良い感じのかっこいいおじさんって感じで、あんまりそういう印象は受けなかったなあ。うーん、演出の問題なのだろうか……

まあしかし、ストーリーが関係しているような気もするなあ。メキシコの奥地へ仇を捜して移動する大筋ではあるけれども、あまり有機的に繋がっている感じがしないというか、それぞれのエピソードに感情が乗らない……酒場での弟仇討ちはまあ良いんだけれども、酒場の娘が殺されるエピソードとか、もう少しメンタルに来る感じの繋がりを描かんとどう見れば良いかわからんよなあ。

あと悪役の立て方も困難だよなあ、と思った。ライバルは物理的に人殺しをしているけれども、そこにもう少し悪辣なニュアンスが混じった方が、ストーリーとしては機能するよなあ、と思いました。