ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

「悪」と闘う

 

「悪」と闘う (朝日新書)

「悪」と闘う (朝日新書)

 

あのですね、自分の身内がね、今債務整理中なんです。自分は密に連絡を取っているわけでもないので、借金地獄に陥っているなんて全然想像もしてなかったんですけどね。

彼は長年実家からダラダラ金を借りまくって、でもさすがにもう借りられなくてしょうがないからオレに連絡してきて、電話口で「金がない」「ツラい」「もう死ぬしかない」みたいなことを延々言ってきたんです。多分意図的じゃないんだろうけれども「お金を貸してくれ」とは絶対に自分から言わないし、どれだけの額が必要かみたいな話もしないわけです。ただひたすら同情を買って相手が金を貸すのを切り出すのを待つのが彼の身に染みついた処世術になっちゃっていたんです。

あー、これは、いろいろまずい。

 彼は元々金遣いは荒かったけれども、キッツい肉体労働の職場のパワハラでうつ病とか抱えて休職してさらに借金がかさんじゃってました。うつ病で引き籠もって筋トレと酒の日々を過ごし、どんどんいわゆるネトウヨの思想にハマっていってて。

両親は戦後の教育を受けて仕事を辞めるなんてけしからんと思ってて今の若者がどのくらいの平均収入かを知らないようなタイプで、だから全く会話が通じなくなるわけですよ。そもそも元々家族仲が悪いこともあってまともな話が普段からできておらず、「死にたいと言われると親としてお金を渡さないわけにはいかないじゃないか」とか言いながら、特大の嫌悪感(ただし返済についての話はお座なり)とともにお金を送っちゃってた状況で。彼もいい加減ローンがツラくてさすがにお金を貸してとも言いづらく、決心して自己破産をしたいと実家に相談したところ、「借りたお金は返すべきだ。そんなのは許さない」とか突き返されちゃったりね。そのくせ建設的に問題を解決する話し合いはできないままで。

彼にもこれ以上他人にお金を借りたいなんて言えないという自己嫌悪は強烈にあって、だからオレにSOSを出すときも、自分からどれだけの額が必要だから貸してくれ、とは言えないんです。目先のローン返済をこなすのが精一杯で、当然将来の計画なんて立てられるわけないんです。自分が総額でどのくらいの借金を抱えているか、それに向き合うことも困難なんですから。まあ、とにかくその状態じゃまともな話し合いなんてできませんよね。

 ……みたいな状況がようやくわかったのは数ヶ月粘り強く本人や実家やらにヒヤリングをしたからで、それを話してくれるだけの信頼を得るまでが本当に大変でした。

話していて思ったのは、とにかく誰も彼の言葉を聞いてくれなかったんだなあということです。無意識に話し相手に負担をかける話し方をするタイプなので親しい人間が少なく、実家は遠いので付き合いの長い友達もおらず、口を突いて出るのは多分それでインスタントにコミュニケーションがとれていたんだろうなあ感情のはけ口になっていたんだろうなあと思える韓国人へのヘイトばかり。

別に言葉全てに同調する必要はなくて、政治的な意見は違っても、その根っこにある辛さには共感できる。相手を尊重しながら、自分も包み隠さず自分の意見を述べること、それができる関係性を築くことを心がけながら話し合いを続けて、まあなんとかまともに会話ができるようになりました。金銭的な補助をしながら、実家に経過報告をしつつ、弁護士のところに連れていって、なんとかそろそろ生活が再建されつつあります。最近ようやく一息ってかんじです。

 

なんか前置きが長かったんですけど。

自分、そういう体験をなかなかしたことがなかったわけで、それまで全然関係ねえやと思っていた生活保護だの人権問題だ政治に関わる問題が急にドーンと立ち塞がっちゃったわけですよ。あーうん、こういうことで人が苦しむのは良くない。絶対に良くない。文字面ではわかっていたつもりだけれども、オレ自分の身の回りにそういうことが起こるまで、全然実感出来てなかった。

でまあ、今度東京都知事の選挙があって、グレーゾーン金利の問題に取り組んできた弁護士が立候補するという話を聞いて、政策論争もあんまりやってないもんで、じゃあ本を読んでみようかってなるじゃないですか。

泣いちゃいますよねやっぱり。ああ、今まで全然意識していないけれど、自分たちの生活はこういう人たちに支えられていたんだな、と感激せざるを得ないですよね。

だから自分のこの本に関する感想は冷静じゃなくてあんまり意味はないと思います。「この強い物言いは選挙に不利だよなあ」とか「原発や反安倍政治のようなスローガンは紋切り型で説得力が乏しいなあ」とか極力平たく判断しようとしてはいるんですが。でもねえ、Twitterで「折衝ができないタイプなので政治家には向いていない」とか流れているのを見ると、いやこの人ふつーに実務してるし強かだしそんなことなくね? とか頭に血が上ってしまっている自分はいます。立法するには与党に取り入るのが必要だから党派に関係なくひとつの問題を焦点に絞って市民活動せよ、とか言ってますよ。そういう短絡的なレッテル張りやめません?

 あーうん、まあいいや。やっぱ冷静じゃない。

 

 まあとにかく、普段馴染みのない弁護士とはどのような社会的意義があるのかという一側面がわかり、自分にとっては素晴らしく有意義な本でありました。

いやー、東京都知事選挙はきちんと政策論争して欲しいですね。