ずっと見なきゃ見なきゃと思っていてようやく見たのだった。
いやねー良い映画なんですよ。すごく良い映画。テーマははっきりしているし台詞のやり取りは気が利いているしエピソードのつくりはとても良い。子どもの所在を花片の有無で暗示する下りとか、もうあまりにも良すぎてビックリしちゃうね。色んな人が名画として名前を挙げているのはよくわかる。わかるよ。わかるんだけどね。
俺、この映画の後半の展開思いっきり気に食わねえわ。
いやまあ、ifの世界が出てきたときに「あー嫌な予感がするなあ」ってのは感じてたんだけどね、あそこの世界で「主人公がいないことで幸せになった人物」が徹底的に描写を避けられているのは、あまりに恣意的ではっきり引く。なんて主人公に都合のいい世界!! 最後の望みだった妻が独身で画面に現れたときは、もうね、なんつーかその、「Kanon問題はここにあったんだ!!」って感じで爆笑しちゃったよ。
結局さ、主人公には様々な困難が襲いかかるけど、その困難って正しい道を選ぶか誤った道を選ぶかの二択で、主人公はいつも正しい道を選ぶのよね。でもそこには、少なくとも「選択肢」が提示されていて、そこで彼は正しい道を選びました、だから世界は正しい形であるのです、という道理に沿って構築されている。彼は主人公であるという祝福を、この映画の世界から与えられている。
選択肢を与えられない場所で、彼はどんな行動を取れた? 家族に当たり散らし、酒に溺れ、自殺を試みるという、ごく当たり前の行動しか取れない。そういう意味では、主人公が甘えを許された世界ではあるよねえ。
でも、本当に人の心を打つのは、その選択肢さえ与えられていない人間が、どうやって世界に相対するかってことの方なんじゃないのかなあ。だからこそこの映画では、選択肢が与えられていない場所から奇跡を起こす役割を与えられた妻こそが、魅力的に感じられちゃう。ま、しょうがないよね。ラストの寄付金のきっかけもミラクルだけど、やっぱりハネムーンのアレ、あの逆転ホームランを打たれちゃったら、もう惚れますわ。