ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

マーウェン

 

マーウェン [Blu-ray]

マーウェン [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/08/21
  • メディア: Blu-ray
 

やりたいことはわかるし方針自体はまあ正しいと思うんだけれども、個人的には全然乗れないなあ。

まず不満なのは、このモテない男の話を行うのに彼が「理不尽な暴行を受けてこうなってしまった」というエクスキューズがあるところだよなあ。彼が周囲の女性陣に囲まれて無条件に優しさを注がれるのは、どう考えても同情がベースにあるからでしょ? これが単に内向的で人形にしか視線を注げない非モテの男だったら女性からこんなに接触機会はなかったはずで、そういう状況で「モテなくても大丈夫フラれてもやっていける」みたいな前向きメッセージを発せられてもそれはちょっと乗れないなあ、と思います。

あとこの映画でキツいのは、主人公のトラウマの解消がフィクションによってのみ行われてしまうところで、もちろんこの立て付けである以上フィクションがきっかけで現実が救われなきゃいけないというのはその通りなんだけれども、だからといってフィクションによってのみ解消されるのも違うよね。特にあの魔女が彼にとって現実の何なのか、みたいな結びつきが明確にはない(あった?)ところはだいぶ問題。いや、薬を断てば直る、みたいなイージーな問題だったわけですかアレ?

そういう意味では、主人公に「立ち直らなきゃ」「向き合わなきゃ」と周囲が迫るその構図も結構見ていてヒヤヒヤもので、「フォレスト・ガンプ」でも思ったけど、うーんやっぱりロバート・ゼメキスは、こういう弱者に寄り添う系のお話って向いてないんじゃない? とは思いました。

マザーレス・ブルックリン

 

へー、エドワード・ノートンが監督してるのか。すげーなー。

だってこれ原作から時代を変えてあるわけでしょ? 市民運動の顔ぶれが黒人と女性メインだったし、主人公は明らかに社会的弱者だし、いやー、こういうコンセプチュアルで胆力の要る設定をガッツリやってしまうのはもうそれだけで「すげー」となるね。さらには監督自身が「オレの演技力ならこの役柄をこなすことができる」って目算があったわけでしょ? いやあ……たまらん度胸だなあ……

作品的にはブン回す感じのハードボイルド、にしたいのはわかるんだけれどもちょっと頭の良さが出ちゃってて、まあその微妙なズレみたいなのが奇妙な味になっているよねー。なんなんだろうなあこの微妙な地に足ついていない感じは。いや、その他のハードボイルド主人公がみんな地に足着いてるってわけでもないんだろうけどさ。不思議。

とはいえこういうことをやるんであれば、もう少し女性が問題を解決する展開になっても良いんじゃない? とは思うけど。鉢を落として男を殺した、というのはちょっと表面的すぎて、もう少し女性の主体的な行動で問題が解決しても良かったんじゃないかなあ……? それともどこか見逃していたかしら? せめて新聞記者を女性にするとか……は、無理か。

ちょっと長尺ではありますけど、有名俳優勢揃いでまあきちんと期待に応える者になっていたと思います。

NHKスペシャル 映像記録 3.11~あの日を忘れない~

www2.nhk.or.jp

あー、これは事件から1年後に制作されたヤツなのね。結構技術的な検証になってるなーという感じもしたのだけれどもなるほどそういうことか。10年経ってこういう細かな検証はやらんもんなあ。そういう中で定期的に流れるのは大変良いことだと思う。

でまあ、やっぱり思うのは映像を撮る側の声のリアリティだよなあ。津波を前にカメラを構えている人、それと一緒に様子を見ている人の声が入るだけで、映像に対するのめり込み度合いが違うのは本当にビックリする。この心臓を捕まられるような感覚は、うーん、すさまじいなあ。

「避難所に行った人」「市役所に戻った人」で運命を分けて描いたり、あと写真の中に写っていた人が後ほど死んでいたことがわかったりと、そういう宙ぶらりんにしておいてグサッと刺すその演出は、まあ善し悪しはともあれ効く。かなり効く。そういう感覚を覚えさせるための意図的なやり方だよなあ。多分正しい。しんどいけど正しい。

しかしこの映像が定期的に再放送されるのは本当に価値のあることだなあと思います。こんなに説得力のある映像なんて他にないもの……いやあ……

台湾 デジタル世代が目指す未来

 

オードリー・タンのことがあんまりよくわかっていないのだけれども、とりあえず見ておかなければならないのはわかる。なんか別のドキュメンタリーちゃんと見よう。でもこういうテクノロジーと民主主義のキープレイヤーに、いわゆるマイノリティの立場の人が目立つのはなかなか面白いなあと思う。マイノリティだからこそ注目される側面もあるのかもしれないけれども、基本的には今ある社会制度に問題意識を持ちやすい立場の方が、現在の制度への思索が深まるってことなんだろうなーきっと。当たり前の日常を相対化出来るというのは大きい。

というのはまあこのドキュメンタリー全体にも通じるテーマであって、これ邦題からはだいぶそのニュアンスが脱臭されているけれども、原題が「Taiwan vs China:a Fragile Democracy」であることからもわかるとおり、内容的には台湾と中国のめちゃくちゃ切迫した関係性を描いているのよね。いつ武力対立が起こってもおかしくないような社会状況だからこそ、社会制度は常に考え続けなきゃならないわけであって。コロナの対策で賞賛されてたのもまあ社会がそういう状況で、危機管理とせめぎ合いつつも民主主義に強く動機づけられていたからだよなーと思いました。

クライシス・オブ・アメリカ

 

うーんだめだなー。

というかさー、こういう「催眠」をテーマに使ったフィクションって時々あるけれど、これみんなホントにマジになって観れるの? だってさー、映像でそれを使ったら基本アンフェアなワケじゃないですか。この映画のラストだって、次のシーンでデンゼル・ワシントンが「はっ!」て気付いて「夢だった……」ってことにすりゃOKなワケでしょ? そういう立て付けの中でハッピーエンドとか有り得ないわけじゃん。

もちろんフィクションというか、主人公の見た夢みたいなレベルで嘘を描く映画はあるわけだけれども、そこではきちんとリアリティによって「現実/非現実」の切り分けがされるワケじゃん? けどこれって、そもそもの現実側にリアリティがない話になっているじゃないですか。例えばこれがヒッチコックだったら、客観描写で叙述トリック的なものは行わないから、その現実が非現実っぽく見えるのが深刻に感じられるわけでしょ?

あるいはそもそも「現実/非現実の切り分けが出来ないことそのものが面白い」というつくりにしなきゃいけないと思うんだけれども、それでいうとこの話はだいぶ情緒が欠けているというか、当たり前のエンタメ構図に落とし込もうとしているよね。「パプリカ」とかまでやれとはいわないけどさー、描こうとしているものに構造的な問題があるように思えてならない。

三千万年の旅 列島誕生ジオ・ジャパン

www.nhk.jp

いきなり「日本には世界一の四季があります」みたいなナレーションから入ってオイオイ大丈夫かよ、となったのだが見終えてみるとまあ意外と大丈夫だった。まあお正月の番組で伝統文化がゴリゴリ言ってるタイミングならこのくらいのさじ加減なら許容、かしら? ……いやでもなんか日本すごい! を地質学的な視点でもやらにゃーならんのかと思うとうんざりするなー。地形にナショナリズムは関係ないじゃん。

まあいいや。内容はまあ面白い。最初はわざとらしくていやな立て付けだなーと思ったけど、印象を強くつけて一般の視聴者にわかりやすく……という意味ではまあ悪くないと思う。カレンダーを出して三つの時期に分けて、という構成はとても良く機能していると感じました。ジオルーペがなんでルーペなのかは最後まで全然よくわかんなかったけど。

面白かったのは再現CGの象。なんで象ばっかりあんなに虐待されなければならないのか、と思いつつも、爆発で象が吹き飛ぶシーンには思わず爆笑してしまう。

ロシア紅茶の謎

 

ロシア紅茶の謎 〈国名シリーズ〉 (講談社文庫)

ロシア紅茶の謎 〈国名シリーズ〉 (講談社文庫)

 

実は有栖川有栖って今まで読んだことなくない? 読んだとしてもすげー昔で内容憶えてないや……シリーズの途中っぽいけれども、一応有名らしいので。

ミステリの流れは遠くからなぞっただけなんだけれども、あーなるほどこういうアングルのミステリだったのね、という感じ。新本格とかそこら辺は遅れてちょっと触っただけなので、オレの漠然としている新本格のイメージとは離れててびっくりしますね。そうかーここら辺までアリなのかー。

しかしこの尺で情報量を詰めてきちんと軽妙なミステリ小説にしてあるのはうーんなかなかすごいなあと思う。ある意味でフォーマットの勝利というところもあるけれど。この尺でこの規模のアイディアを読ませてきちんと完結するミステリというのはまあ難易度高いと思うんだけど、それを可能にする優れものフォーマットですね。

表題作の『ロシア紅茶の謎』はやはり良くできていてうーん納得。それぞれの短編のトリックは、本格的なものもあればギャグみたいなものもあり……みたいな感じで千差万別なのだけれども、どの短編もラストの切れ味が鋭いのがとても良いと思う。いやほんと、トリックの謎ときよりもむしろ最後にどういう落とし方してるか気になって読んでいる、みたいなところがある。ミステリ小説ではあんまりなかった感覚なので、ちょっとビックリしました。