観たのがだいぶ前だったので見直す。3度目くらいかしら。このくらいの時代になるとホント安心して観られますねヒッチコック。当たり前だけれども傑作。
まず何よりも導入の人の取り違えシーンがヤバくて、普通こんな事件のきっかけになるシーンはどれだけきちんと説得力を積むかに注力すると思うんだけれども、そこを返事ひとつで解決させちゃうのがホントすごすぎる。あの素っ気なさが逆に奇妙なリアリティになって巻き込まれる男への感情移入をガンと増させている感じで、名人芸以外の何物でもないよなあ。
脚本もキレキレで、マクガフィンどころか主人公が間違えられた男が実は存在しないというアイディアは全体のトーンを支えていて本当に素晴らしい。ストーリー展開に沿って主人公の動機が流れるようにスライドしていくのも実に見事で、受動的な無実の証明からいつの間にか能動的にヒロインの救出へと向かっているのも大変よろしい。
あとはもちろん個別のショットもキレキレで、突然差し込まれる国連ビルの俯瞰ショットのギョッとする感じとかはチャチな理屈を超えてるなーって感じ。ラストのトンネルも笑っちゃうくらいバッチリ決まってるよね。
でまあ、改めて観る例の飛行機シーンだけど、いやーホントすごいデキですね。情報をコントロールして意識を誘導するだけであんなにすげえシーンになるのかと脱帽。特に音の情報のコントロールが素晴らしい。ヒッチコックの音響は、時折絞りすぎじゃないかなあもっと音楽差し込んだら? と思うことは多々あるし、『サイコ』も編集で揉めた観たいなことを映画でやってた気がするけれども、この作品の飛行機シーンは完璧にハマってるよなあ。