なんかツイッターで見たんですよこの本を漫画に砕いたヤツが。小麦を擬人化して人間を騙す内容。私『銃・病原菌・鉄』で農耕がどのように宗教を生み出すかって展開にすげー感激してこういう歴史系の本を読み始めるようになったので、はっきりいって反感を抱いちゃって、果たしてどんなもんかなあと読み始めたんですよ。そしたら確かに農耕で人間は幸せになったわけじゃないという主張を行っているけれども、小麦を別に擬人化したわけじゃない。それどころか、後の章でこんなこと書いてあるじゃないですか。
留意してほしいが、遺伝子同様、軍備拡張競争に自覚はない。それは生き延びて繁殖することを意識的に求めはしない。それが広まるのは、強烈な力の働きの、意図されていない結果だ。
いやー、こういう本でわかりやすさを優先して擬人化しちゃうのはどうなんすかね。
全体を通して色々いいたいことはある本で、特に幸福を巡る話の辺りが心底どうでも良い。人類にとっての本当の幸福とは何か、という問いかけにある程度の回答をもたらそうとしているけれども、それだって結局我々の常識的な物語の規範から逃れきれていないわけで、そんなチンケな常識遺伝子操作で人間の寿命がなくなったら確実に変わるわけじゃないですか。仏教の幸せに関する考え方とか奥の手っぽく出されて考え方自体はふーんなるほどとは思ったけど、基本的には全く意味があるようには思えず、この本の後半を締める構成には大いにガッカリさせられました。
が、基本的には発見連発の本でありまして、「全史」の名に恥じず人類の歴史が生み出した様々な現象を思いも寄らない角度から意味づけていくのは大変エキサイティング。特に認知革命から流れるように貨幣の交換が担保される下りへと展開していくのは、うへーなるほどと感激さえ覚えました。他にも、一神教が攻撃的になるという指摘は改めて考えりゃ当たり前だけど見落としがちだし、科学は金が要るって指摘も改めて言われるとむちゃくちゃ説得力があるし、金を使って金を増やすという考え方が革命的だったってアダム・スミスの偉大さを思い知らされるし、宗教と科学の根本的な違いが自分を無知とおくかどうかというのは「反証可能性」ってワードよりもよっぽど実感に引きつけて理解できるよね。まあとにかく目からウロコがポロポロポロ。
正直反感を覚える箇所も多いけれども、それはそれとして大変面白い本でありました。よくもまあこんな広範囲の話題をまとめたもんだよなあ。