インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI (HJ文庫)
- 作者: 米倉あきら,和遥キナ
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2013/02/28
- メディア: 文庫
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小説、と言わず漫画でもなんでも、表現というのは大抵送り手と受け手があって初めて成立するわけです。送り手がいかに素晴らしい作品を創りあげたところで、それが受け手に読み取られることをしなければ意味がない(極論)。エンターテインメントもその例に漏れず、いやむしろエンターテインメントこそが、その両者の合意形成を前提として成立するジャンルですよね基本的には。
でもまあ、「悪い人は悪いよね」という話を書いたところでその作品は当たり前の事実を確認するだけなワケで、作品・物語として語られるからには、当たり前でない出来事が必要なわけです。例えば「子ども投手が野球で大人を翻弄してる!」みたいなね。「なんかスゴイ子ども」と説明してみたところで、「いやそんな子どもいるわけないじゃん」で一蹴されて送り手と受け手が交渉決裂するから、いかにも説得力のある「魔球」を編み出して合意形成を図ったりするわけです。あとほら、修行したりひみつ道具作ったりそれぞれみんな色んなテクニックを使ってます。
推理小説というのはその合意形成への挑戦の最たるもので、「ミステリ」って名が示すようにそもそも送り手と受け手に凄まじい断絶があることこそそのジャンルを支えているわけです。不可能状況、密室をいかにして成立させるかというのは、つまり送り手の作った一見「いやありえねーでしょ」っていう状況を、いかにして受け手に「あーそれだったら確かにあるかも」と思わせることができるかというチャレンジである、というような。それを成立させるために、トリックと呼ばれる奇抜なアイディアや屋敷と呼ばれる異界や名探偵と呼ばれるスーパーヒーローが要請されちゃったりするわけです。たぶん。
でもどんどんその合意形成への挑戦だけがインフレしていくのってちょっと異形だよね。だって、読者は不可能状況への合意だけを楽しむわけではなく、その合意によってどのような感情が喚起されるかという点も重視するわけだから。
でで、前置きが長くなったけれども、この小説は一瞬「あれ日常の謎かな」と思わせる甘い処女膜予想をぶち破り脳を強姦一発全力で犯しおいターゲットは女子中学生だけだったんじゃねーのかよおっさんもクラークよろしく犯されたぞコラあれはお互いに犯しあったんだっけまーいーや、ともかくまあ全力でぶち壊し始めるのでわーいたのしー。っていうか語り手は信頼できねーしワイダニットだし、ミステリの皮を被っているけど実は最初からそんなに普通の不可能状況を成立させる合意形成とかはどーでもよくて、んじゃあ一体この作品でオレはどれを楽しめば良いの? という所を追い求めて延々読むわけです。読む。キャラクターさえあえて曖昧にかかれ物語に利用されている現状、コロコロ転がりどうにでもなりそうな世界の中、でも確かにこの世界を下支えするルールはいくつかあって、あー、そうかそうかこれはアレだ非ユークリッド幾何学だ! とか謎の単語が脳裏に浮かんで来ちゃったりする始末。内角の和が180度を超える世界が無矛盾に成立するへーすげーでもそれってオレの生きてる世界となんの関係があるの?
そうそう、つまりこの小説のルールはいつも読んでるミステリとはちょっと違っていて、でもまあその世界なりのルールが不変なのでそれはそれでいい。それについてはオレも同意せざるを得ないすげー変な世界だけど。でもまあ、そこで同意が取れても大事なのはそっからオレがどんな感情を喚起されるかみたいなところなわけで、俺この話で何を感じれば良いの? いやまあこういうルールがあーだこーだいうことを考えるきっかけとしては大変面白かったんだけどそれはそれで置いておいて、ヒロインと主人公のキャラクターやら関係性やらにもうちょっと心揺さぶられても良かったのかなあ、なんてことは思わなくもない。正直途中からあまりに揺らぐ動機にそれぞれの行動の信念を読み取る努力がバカ臭く思えてしまってそれはオレの忍耐力の無さかもしれないけどでもなあ、もう少し興味を引っ張られると楽しく読めたのになあ、とは思いました。
まあでもいいや。ちょっと前の小説だけど、とにかくこういう本がラノベレーベルから出るのは大変よいと思いました。もう少し早く読めよオレ。