えでぃっと! -ライトノベルの本当の作り方?! - (一迅社文庫)
- 作者: 箕崎准,蒼魚真青
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2009/09/19
- メディア: 文庫
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だがこの小説に、新人賞に投稿して落選する主人公の苦悩は描かれていない。
新人賞の締め切りに間に合わず、嫌々ながら電撃大賞から次の賞へと狙いをスライドさせる主人公の描写はない。2chの新人賞スレに張り付いて今か今かとフラゲ報告を待ち、書き出された一次通過者リストを目を皿のようにして見る主人公はいない。落選なんて何かの間違いじゃないかって、報告者に誤字があるんじゃないかって、発売日に書店に駆け込んで何度も通過者リストを見返す姿も描かれない。ブログの創作論を読みながら「こいつはなんにもわかってねえなあ」と冷笑する姿も、一人暮らしでエロ本を片付けるのもおっくうなままゴミ箱がティッシュだらけの場面も、ニコ動を見てエロ画像を集めていたらいつの間にか一日が過ぎているような描写もない。そんな自分に死にたくなるような日常はない。
編集者に口先では絶賛されながらも、その奥には「きっと口ほどには面白いと思ってないんだろうな」なんて疑っている心理も描写されない。憧れだったプロ作家の姿に気後れしてしまった姿もない。これから本当に小説家としてこれからやっていけるのか、そんな悩みもない。印税が入ってくるまでの貧乏生活も描かれない。初めて出た作品を見知らぬネット上の他人に理由もわからないままコケにされて不安になったり、感想から目を背けたり、自分のペンネームを検索するのが嫌になったりすることもない。
ただ言葉で説明されるだけで、読んでいるこちらまで身につまされるような苦悩は微塵もない。
だからもちろん、心の奥から湧き出してくるような、小説を書くことの喜びもない。
ネットで自分の小説を初めて発表したときの高揚感も、とてつもなく恥ずかしいことをしてしまったんではないかという不安も、初めて感想をもらったときの舞い上がるような感じも、酷評を食らったときの死にたさも、締め切りギリギリに印刷して綴じ紐がないことに気づいたあのギリギリな感じも、郵便局でもらった控えの紙をそっと財布の一番奥に入れる時のあの祈りも。
初めて雑誌に載った自分のペンネームも、次の審査は通るのかという不安も、落ちてしまった喪失感も、見知らぬ電話番号を受けて覚えたあの高揚感も、初めて踏み入れる出版社の恐れ多い感じも、胸が張り裂けそうな中で行う初めての編集者との討論も、初めての締め切りへの恐怖も、やってくるゲラのもう二度と見たくない感じも、そしてもちろん、初めて自分が出した本を手に取ったときのあの安堵も。
全部ひっくるめて、ない。
でも、それは、悪いことじゃない。
主人公は(おそらくは親から受け継いだ)才能で、新人賞に受かる。
創作の神様なんて存在でスランプを乗り切り、次々と新作を書く。
つまりこの小説は、そういう「様々に襲いかかる創作上の苦難を乗り越えて、主人公が成長していく」タイプの小説ではない。主人公の才能と神様の存在は、明らかに主人公が必要以上に苦悩を抱かないままに課題をクリアする理由付けとして機能しており、それがもし作者の意図したものでなかったなら、作者が馬鹿か、それともこんなことを書いている自分が根本から小説を理解していない大馬鹿か、そのどちらかだろう。
で、別にそれはそれでいい。
努力なんて流行らなくて成長なんて不要で、女の子のハーレムで主人公がモテモテで、それで読者が喜んでたくさん本が売れて、だったらその装置にも意味がある。
好き嫌いは別として、その仕組みがきちんと機能していれば、何も文句はない。
でも機能してない。
っつーかいきなり初対面の作者に編集者が一番の問題点として「新キャラクターが萌えないところでしょうか」なんていうのは控えめに言って最悪で、好感を抱かせなければならないヒロインにそういう言葉を無神経に言わせてしまうのを見ていると、楽屋落ちモノだからしょうがないんだけど、ああつまりこの小説の作者はこういう編集者の前で仕事をしているんだろうなあ、というのが想像されてしまう。
で、それを「やっぱりそうなのかなあ」なんて受け入れる主人公にはもう怒りしか覚えない。
時系列とか語尾とか関係ね―よ。
外見がどんなだって、売れ線のイラストレーター引っ張ってきたって、ダメなキャラはダメなんだよ。
『原稿、頑張ってください。応援しています』とか書いてキャラクターに愛着を抱けるんだったら百回でも千回でもかいてやるよ。
でも違うだろ?
キャラクターへの愛着って、そこから生まれるもんじゃねーだろ?
ってか、普通に考えて恋愛関係を書くのが売りの作家って、自分の創作したキャラクターに自信を持ってるはずじゃね?
いくら正しいからと言って、初対面の編集者がストレートにそれを指摘して、まあ指摘は正しいかもしれないけれど、でもその後の作家/編集の関係って危うくなるって容易に想像できるんじゃね?
少なくとも、ヒロインはそのような態度で接するように引き継ぎを受けていた、くらいのフォローがないと、ヒロインに好感を抱くのは難しくね?
で、それってこの小説にとって致命的じゃねーの?
別に「まんが道」とか「G戦場ヘヴンズドア」とか「バクマン」とか、そういうのはやんなくていーよ。
キャラ小説を書いてゲラゲラ笑えて萌え萌えできてそれで売れるんならそれでもいいよ。文句ないよ。
でもさ、才能だけで何となく賞を取って何となくスランプを乗り越えて何となく作品を世の中に出せる主人公の態度に、作者の創作姿勢が透けて見えるんだよ。
そんな姿勢でキャラ小説書いたって、そんなもん、全然、読者の心を揺さぶれるわけがねーんだよ。
ラノベなめんな。
でもってラノベ読者、いい加減なめられるのはやめにしようぜ?