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ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

ゲーマーズ! 雨野景太と青春コンティニュー

ラノベ 書籍

俺が別のブログでラノベの新刊を片っ端から乱読して記事を書き殴っていた頃、葵せきなのデビュー作『マテリアルゴースト』の感想を書いたことがある。当時の自分は自らがラノベ書きたくて仕方ない人間だったのでガチでラノベと戦っているつもりでいて、「こんなラノベが商業ベースに乗るのは許せん!」という謎の使命感(今もあるけど)と共に内容を自分の感情を全くさっ引くことなく作品の感想を書いた。特にクライマックスの主人公の行動原理が「自分の鬱憤を晴らすだけで物事の解決になっていない」のでうんこだと思ったので、正直に「メンタリティがうんこだと思った」みたいなことも書いた。今読むと感情的でちょっとキツい感想だけどウソは書いてない。
そしたら後日、ブログに「お前の感想は偏りすぎ。その年にもなって恥ずかしくないの? 文句を言うなら買うな」って感じを皮切りに、長文のコメントがついた。結構激しく反論もらって、俺は「あー、ファンの人に不愉快に思われたんだろーなー」って最初はビクビク反応してたんだけど、レスを書いてる途中で気付く。
「あれ? このコメント書いた人の名前、葵せきなの逆さ読みじゃね?」
早速書き込みのIPから地域を特定して、当時存在した葵せきなの個人サイトを調べたら最近引っ越したって旨が記されており、その引っ越し場所IPの地域と一致してた。ついでにブログを見に行くと、あー、同じ日付で「自分は批評されるために小説書いてるわけじゃないです」ってエントリが上がってる。
わっはっは。
あまりにも面白くて状況をそのまま2chラノベ板とかに書き込みに行こうととか思いついて危うくやりかねないテンションだったので、俺は必死に自制した。一時の「面白いから」みたいな感情でデビューしたばかりの新人の振る舞いにケチをつけて炎上(って言葉はたぶんまだなかったけど)させていいものか、その書き込みでひとりの新人の未来が潰えてしまうかもしれないのだ――いやこんなラノベを書いてこんな振る舞いをする作家に、正直なところ未来があるとは思えないけど。

とか思っているうちに葵せきなはバンバン小説を書いてシリーズを完結させ次の新シリーズもガツンと売れてアニメ化されゲーム化され2期も作られ、まあ簡単に言うとヒット作家になった。「葵せきなはワシが育つのを妨害するのを我慢した」。
俺は新シリーズ『生徒会の一存』の一巻も読んで「前よりは良くなってるけど、まああんまり好きじゃないよね」って感じの感想であり、それだけヒットする理由が全然想像つかなかった。周囲の信頼できるラノベ読みの人が「生徒会シリーズの最終巻が素晴らしい」みたいな話をするのを、まるで異世界の言語のように聞いていた。いや確かに巻数も重なって成長もしてるんだろうけど、正直あの作家がそんな良い物を作れるようになってるなんてのは信じられないなーとかなり不思議に思っていた。

で、そんな不思議感覚を抱いたままに読んだ『ゲーマーズ!』である。
すごい。これは諸手を挙げて降参。素晴らしい。素晴らしいです。
この作品の良いところは色々あるけど、まず真っ先に視点の交換を効果的に利用したド直球な勘違いラブコメとしての完成度がまあかなり高くて、もうそれだけで全然面白い。情報を適度に隠蔽しつつ、ゲームという題材を中心に添えて、キャラクターの立ち位置と人間関係のアレコレできちんと読ませる内容になっている。
でもやっぱりこの作品が素晴らしいのは、ガチ勢の集う「ゲーム部」の入部依頼を断る「エンジョイ勢」主人公の位置取りにある。「ぼっち」で積極的に友達を作ることもなくぬるーくゲームを楽しんでいた彼は、ガチゲーマーたちが勝利を追求する姿勢の素晴らしさを尊重しつつも、しかし自分が楽しむゲームはそこにないと考え「ゲーム同好会」に参加する。「真剣に物事に向き合う姿勢の拒否」が主人公の行動原理であり、困難や成長の拒否が作品全体の背骨だ。
がしかし、物語的力学ってヤツはどうしようもないくらいに強力だ。あらゆることに「楽しければ良い」というスタンスを崩さなかった主人公は、小説の中心に配置された途端、「ガチで」現実に真剣に向き合い、自分がゲームに対してどのように対峙するかを見つめ直し、他人とのふれあいの中で仲間との適切な距離感を獲得することが期待されてしまうのだ。
その二律背反が、一見ただの面白勘違いラブコメっぽくも見える本作に、とんでもないダイナミズムを生み出してる。単純にゲームに限らず人間関係や創作姿勢も含めて「ガチで事物に向き合う」姿勢を期待してしまう読者に、作品のアイデンティティである「楽しければ良い」を掲げ真っ向から対抗するエンジョイ勢の主人公。「物語」という枠組みが根本的に持つ力学に、真正面から挑戦を叩き付けており、そしてそれは、かつて俺が強く反感を抱いた、作者自身の創作姿勢の表明でもあるはずなのだよ、たぶん。

いやあ、素晴らしいです『ゲーマーズ!』 。みんな読むといいにょ!