ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

M

 

フリッツ・ラング・コレクション M [DVD]

フリッツ・ラング・コレクション M [DVD]

 

なんか最近フリッツ・ラングづいてるな。古典をちゃんと見るのは大変良いことだと思いますと自賛。

借りたDVDの冒頭で淀川さんが解説してたけど、いやーホントに冒頭の風船が怖い。前半のザ・モンタージュがキレッキレで、さらにあんな効果的な音響の使い方されちゃったら、もう土下座モノであります。ライティングやら編集やら、さすがの巨匠フリッツ・ラング、ホント素晴らしいです。

中盤の追跡パートはザ・サスペンスって感じ。まだ洗練されてないなあとは正直思うけど、時間制限やら予想外のトラブルやらを埋め込んで、さすが上手くやっているなあという感じ。もっとも解説が上手すぎて、もっと「M」を巡る話になるのかなあと期待しちゃったんで、そこは残念ではあった。ヒッチコックだったらその「M」の文字だけをテーマに一本つくれそうな内容だよねえコレ。

しかし終盤の人民裁判はなんなのかしら? 当時のドイツの社会背景と関係あるの? 当時はナチスとか出てきてそうだしなんか安易に結びつけちゃいそうだけど。裁判モノって社会の状況とか欲求とかをストレートに拾い上げられるから、きっとそういうバックグラウンドがあったんだろうなあ。

キッズ・オールライト

 

キッズ・オールライト (字幕版)

キッズ・オールライト (字幕版)

 

うーんこのジャケットである。ここを選ぶなんてなんて根性だ!

レズビアンカップルとその子供の家庭に精子提供者の男性がやってきてさあ大変! というストーリー。映画ではゲイって言ってて日本語の使い方とちょっと離れててビックリしたりもする。

こういう映画で結婚する所とかをドラマにせずに、むしろその後の子供の巣立ちのタイミングみたいなそこそこしんどいところをテーマにするのは社会がそういうターンなんだろうなあ、と思う。レズビアンカップルの恋愛はすでに当たり前のもので、いきなりホモビデオ見ながらのレズシーンブチ込んでくるんだもんなあ。なかなか強烈な「日常」のパンチを食らった感じ。

映画全体がそういう日常のしんどさと非日常への飛躍の間で揺れ動いていて、男性が外界からの侵入者として描かれるのが大変面白い。オーガニックな実業家で魅力的な役柄で子供達の受けも良くてセックスにも積極的で、これって男女の役割が反転したらあーなるほどはいはいってなるよね。

カップルのすれ違いはたぶん根本的には解決していなくて、というかあそこまでいったら解決する手段もなくて、だからああいう結末で色んなものと折り合いをつけてやっていくしかないんだろうなあ。そういう意味でも大変地に足の着いた映画。

インヒアレント・ヴァイス

 

インヒアレント・ヴァイス [Blu-ray]

インヒアレント・ヴァイス [Blu-ray]

 

へんな映画!! PTA全開って感じ。

LA舞台の探偵モノというのはオレレベルでさえ色々思い浮かぶけど、今回の映画はそれに輪をかけてバックグラウンドがありそうだよなー。当時のドラッグカルチャーとか政治運動とかそこら辺の文脈が追えてないときっと色々読み落とすんだろう。こういう作品を見ると文化的差違に対してすげー目が粗いことを思い知らされるよなホントに。

でもそんな内容でも探偵モノ独特の突き放されたドライブ感があるのはやっぱすげーよなあ。いきなりブン殴られて砂漠で旗を見上げたり、秘密の部屋で大量の痛ネクタイを見つけたり、小窓の向こうで拷問が始まってたり。やっぱ探偵モノはこうでなくちゃ、というあの独特の感じがPTAの映像編集とすげーマッチしていて大変風格がある。

というか風格みたいなビミョーなニュアンスしか言語化できないところがあって、いやだからへんな映画! って感想なんだけど、ほんと変な映画! 『L.A.コンフィデンシャル』『チャイナタウン』みたいなゴリッゴリハードボイルドではないけれど、しかし『ビッグ・リボウスキ』『キスキス,バンバン』みたいないかにもコメディって作りでもなく、むしろ『マルホランド・ドライブ』みたいな突き放され感の方が印象に残っちゃったりなんかもして。ってかLA縛りでもこんな類似作品が出て来るんだからすげーなLA。へんな町。

ブレードランナー 2049

www.bladerunner2049.jp

傑作。いやー素晴らしいSFを見たって感じ。

SFは絵だって言ったのは誰だったかしら? 前作『ブレードランナー』のアジアからテクノロジーがやってきた! というイマジネーションはすでに陳腐化しているわけで、今更その焼き直しをやってどうすんのよ? と言わんがばかりのストーリーにまずは感服。冒頭の色彩に乏しい一軒家で何の説明もなく殴り合いを始める導入とかおしっこちびりますわ。過剰な説明なんて要らないんすよ。画面の端に土の中からの箱の掘った跡が垂直に切り立ってるだけで「なるほどそういう世界なのだな」って了解が取れちゃうわけですよ。それが架空の世界を創るってことなんすよ。

いやしかし陳腐化しているあの街並みから逃げることは全然してなくて、むしろCGを利用してありそうなネタを全力で映像化しているのには感服する。ベガスのステージとかもよくあんな見せ方できたよなーと関心。そして何より濡れ場だよ濡れ場。SF映画で『her』以上のセックスシーンなんてあるわきゃないと思ってたけどさ、あんなガチで映像的にもメチャクチャ強度のあるセックス撮られたらもう白旗です。

あのシーンもずいぶん長尺だったけど、それをちゃんと見せるだけの画面の強度になってるのもすごいよなー。ってか全体的にライティングがすごすぎ。冒頭のヤカン湯気からしてもう溜息しか出ない凄さ。あのおねーちゃんが歩くたびに光源動くのは何のためなの? とか思ってたら、社長とデッカード対立の超重要シーンで顔をぐるりと光が回って、動きが全然ないシーンなのに顔の陰影の変化だけで画面に釘付けになっちゃうんだもんなー。撮影監督ロジャー・ディーキンス。やっぱこの人の映像はスゲーや。

でまあ、この映画のストーリーってだいぶギリギリだよね。馬の木彫り一本でラインを繋ぐ大変危ういストーリーテリングで、たぶんこの画がなかったら成立してないんじゃないかなあ。論理的には繋げるのが大変困難な本線を、圧倒的な映像の説得力で繋げちゃってる感じ。ザ・総合芸術。ほんと素晴らしい。

にしてもアンバーを巡る映画だったなあ。冒頭の花(生殖器!)から蜂が繋がってデッカードに結びついたときは感激だったけど、上司の人が死ぬ直前にウィスキーを飲んでたり復活の場所では炎が燃えたりラストの水際決戦でもわざわざテールランプに波を反射させてアンバーにして、とか徹底的にやっていて、大変好感が持てました。

スポットライト 世紀のスクープ

 

真っ当に面白い映画だなあ。新編集長がやってきた時の立て方の適切さが堪らない。劇的ではなくさりげなく押しつけがましくない範囲でサッと印象づけるあの感じ。いやはや実にスマートですね。たくさんの人間が登場して色々な出来事が平行して行くにもかかわらず、テンポ良い編集でスパッスパッとそれぞれの問題が頭に入ってくるのも大変素晴らしい。しち面倒くさい陰謀なんかではなく、教会が起こした幼児への性的ないたずらを暴く記者たち、という基本構造がまあわかりやすく強力だったってことだろうなあ。普通だったらもっとあの変わり者の弁護士を深堀りしそうな所だけれども、周囲の人間にもまんべんなくドラマを作ってるもんなあ。いやー素晴らしい脚本。

派手なところはあまりなくてクロスカッティングやら何やらで映画的に見せる作品ではあって、いやホントに基本に忠実ですねって感じ。クリスマスのダイジェストはもう恥ずかしくなっちゃうくらい決まってるし、1度は拒否した後の呼びとめとかもうベタベターなヤツをバッチリ成立させちゃってるのはすごいと思います。

あとなんといっても白眉はラストのリストだよなあ。感動的なクライマックスを経て、最後に添えられる都市の数が何よりも雄弁で、彼らが暴き出した犯罪行為のすさまじさを印象づけるという。

通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?

 

通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか? (富士見ファンタジア文庫)

通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか? (富士見ファンタジア文庫)

 

オレにはよくわからんけどフルダイブして異世界ってどうなの? 結構あるタイプなの? 作品内に微妙に現実との繋がりが残されているようで残されていないようで、でもそこら辺の曖昧さを利用してストーリーやらギャグやらが展開されるの個人的には最高にモヤモヤするんだけど。なろうとかちゃんと追っかけていればこの微妙にゲームライクな世界観を問題なく受け入れることもできるのかしらねえ。

まあいいや。作品としては「お母さん」が中心に添えられていて思春期のオカンに対するイライラは大変共感しやすい感情なワケで、んじゃあその感情をテコにどんなお話を作ってくれんのかなーと思ったんだけどまあ良くないね。母親の描き方がもう信じられないくらい薄っぺらで「あーはいはいそういうネタね」以上の感想が出てこない。いやまあもちろんネタなのは前提なんだけど、そのネタっぽい入り口からズンズン進むとおーなるほど母とはこのような存在なのか、というキャラクターの立ち位置から生まれる思索みたいなのが感じられることを期待しちゃうわけで、入り口のネタ感から一歩も先に進んでいないクライマックスの善悪の対立構造のペラッペラの薄さに苦笑も漏れない。キャラの造りや話芸にも全く面白味がなくて、白瀬さんの繰り返し芸が唯一好感という感じ。

別に賞に期待するお年頃でもないけど、これが大賞なのか、はぁ……

赤ずきん

 

赤ずきん [Blu-ray]

赤ずきん [Blu-ray]

 

赤ずきんなんでとりあえず人狼も混ぜてみましたって感じの話で、種明かしの「ふーむなるほど」感はまあまああるのでとりあえず面目はたったかなーという感じはする。というかそれまでのストーリーのワリとどうでもよさに比べて種明かしの組み立てがそこそこしっかりしていたからビックリしてしまった。

とまあそこで意外に思ってしまうくらい全体的な造りは低調、というか別に高級なものを狙って作ってないからしょーがないよなー。森の中にある村の建物をあんなに密集させるリアリティのなさを赤ずきん童話時空で担保するのはまあわかるんだけど、そこで語られる物語のわかりやすさはドラマレベルというか。そんな集中力払わずに見ても面白い造りだったら集中力払わずにみちゃうよねーという自分の悪い癖が出た感じである。

極めつけは特典の「もうひとつのエンディング」で、まあキレイと言えばキレイなエンディングだったしあそこからどうやってもうひとつエンディングを拵えるの? と思ったらもう全くなんの意味もないもうひとつ感で爆笑した。あんなんわざわざ別に撮る必要どこにあるの? 明らかに物語全体の意味合いが変わってくるし、そんな重要な場所を丸投げする意味がさっぱりわからん。