主人公が眼鏡メイド・エレに騙されていたことが発覚して切れるシーンがある。あのシーンは表面上、自分を騙したことへの怒りを表しているものの、その根底には「無力な自分への鬱屈」があったはずだ。
突然異世界へと召喚された主人公は、訳もわからないままに世界を揺るがす大事件へと巻き込まれ、自分の無力感にさいなまれていた。それを救ったのが無表情な眼鏡メイドのエレであり、彼女が側にいることが主人公の心の支えとなっていた。
ところがある時、エレが主人公を騙していたことが発覚する。彼女は主人公自身を必要としていたのではなく、主人公の力を利用しようとしていただけだった――無力な自分に直面させられたからこそ、主人公はまるで別人のように怒りを露わにしたのだ。
だから本来ならば、主人公がエレとの関係を修復するためには、「自分がここにいることに意味がある」ということを証明する必要があったのではないか。
「実はエレにはこんなトラウマ過去があったんだ!」という新事実が露わになり、自分の至らなさをいくら反省したところで、主人公の無力さという根本問題は解決しないのだ。