ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

“文学少女”と死にたがりの道化

 

“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)

“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)

 

 ハリー・ポッターシリーズがファンタジーでコーティングされたなんちゃってミステリなのと同様、これはあくまでも『人間失格』というわかりやすい文学的ギミックをかぶったミステリ風味の読み物であり、ライトノベルの落としどころとしてはこのあたりがグッドというのは非常に良くわかるのだが、しかし作品の完成度からいったらずいぶん食い足りない。


最終章のひとつ前で明かされる過去の悲劇は「太宰治」『人間失格』という時代を越えた名著をバックグラウンドに敷いている。現在でそれが反復される最終章は、物語の力学からいって明らかに「過去の悲劇を乗り越える」必要があるのだが、それは同時にバックボーンとなった「太宰治」の『人間失格』を乗り越える作業でもある。自分にはこの作品がそれに成功しているようには感じられなかった。ってか普通太宰治以上の説得力を生むのって無理だろ。

あと序盤で「この手紙の作者が彼女である可能性」を疑いつつも、それを無意識のうちに思考の中から外してしまっていたのは、序盤のラブコメ風味のおかげだろう。最初は彼女にあの手紙を書かせたところで「おいしいところがなにもない」はずの物語なのだが、過去の悲劇が前面に出てくることで全体のテイストが全面改編されてしまう。手紙の内容の鮮やかな再解釈も、「物語全体の指針が変更されたことにより、キャラクターの役割までもが変更される」部分が大きく寄与しているのではないかと感じた。