ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

ナイブズ・アウト: グラス・オニオン

www.netflix.com

うーん、うまい。この監督本当にうまいなあ。スター・ウォーズは正直全く感心できなかったけれども、こういう題材をこうもテクニカルに料理されると、うーん適材適所ってのはあるんだなーって感じがする。ってかとにかく探偵が自分の真意を隠して自ら謎の島に乗り込む、という仕掛けがうますぎるよなー。中盤で種明かしする所の、ヒキのあざとさなんかもぜーんぶ含めて、感心するしかない内容でございますよ。ミスリードの撒き方も「うーんわかってんなー」って感じだし、これだけの大仕掛けがあって翻弄されつつも探偵役はちゃーんと美味しい所を持っていくし、いやー、本当に素晴らしいですねー。これだけ個性的で、でもある種定型のキャラクターをガンガン出して、でも途中で「色々あるけれどもまとめてこういう動機があるでいいでしょ?」みたいなところも、適切な情報の省略って感じでとても良い。良いなあ。

ラストの決着の仕方は、まあちょっと乗り切れないかな……? ところはあるけれども、このストーリー内容からするとまあ大変真っ当な落とし所ではあるよなあ。変に録音とかしてなくて本当に良かった。まあ、モナリザはさすがにわかりやすすぎる収束だよなーとは思ったけど、まあ映像的な面白さも含めてあのくらいよねえ。

ニンジャバットマン

 

うーん、これは褒めざるを得ないなー。すごいなー。良くできてるなあ。

こういう物量をぶっこんでも、脚本の質がそれに追いついていないことって結構あると思うんだけれども、これは物量をぶっこむことが正しく機能している感がすげーある。脚本も、別にすごく技巧的なことをやっているわけじゃなくて、既に存在するスターたちのキャラクターを、戦国時代を舞台にいかに格好良く見せるか、しか考えていなくて、合間合間は極限まで省力化されているわけだけれども、まあとにかくそのキャラクター同士のやり取りが極限まで紋切り型になっていて、それがとんでもないコストの動画と合わせて大変心地良く感じられるんだよなー。そりゃまあこういう役者をあてがわざるを得ないよねー。

まあしかしその省力化された脚本も、雑というよりもむしろメチャクチャクレバーにできていて、そこら辺もまあそつない感じなんだよなあ。猿が出てきた時は一体何事かと思ったけれども、なるほど確かにラストの山場から逆算すると、確かにああいうリアリティレベルの脱臼のさせ方を仕込んでいかなきゃ駄目な内容だよねえ。バットマンが異世界に行って、そのバックグラウンドたる遺産がなくなってどうする? みたいなところも、「伝説があって首領として担がれる」というトンデモ展開なワケだけれども、それもバットマンという歴史あるキャラクターの根本的な属性で、大変クレバーな解法だよなあ。

いやあ、こういう映画にお金が注がれるのは良いことだと思います。

ドリームプラン

 

ドリームプラン [Blu-ray]

ウィル・スミスのアカデミー賞の振る舞いばかりが印象に残ってしまうけれども、映画自体は大変面白かった。テニスという歴史の長いスポーツを鑑みれば、そこには強く黒人の権利運動の側面があるのはもちろん当然のことなんだけれども、むしろこの映画の面白味は英才教育に比重があってそれもなかなか面白い。普通、こういう親が熱心なコーチになる成功物語は、「子供に無理させちゃいけないよね」みたいなアンバランスさをはらむと思うんだけれども、今回はむしろウィル・スミスがポジティブな親として描かれていて、いやーすげーなーと思う。こういう、子供にきちんと向き合って英才教育を成し遂げることを、ポジティブに描くことは、多分社会の子供との向き合い方を少しずつ変えていくんだろうなあ、感じる。まあそこら辺の映画の妙味も含めて、やはりウィル・スミスのビンタ事件はインパクトがあったんだろうなあ……

もちろん父親は大変素晴らしい教育を施したわけだけれども、契約したコーチの度量の広さは正直ヤバイよなあ。未来がどうなるかもわからない少女の才能を担保にして、あんなオヤジをずーっとパートナーに置いていたわけでしょ? そりゃまあナイキの契約を蹴ったら泣いちゃうよなあ。

噴火山: ファカアリ島、緊迫の救出劇

www.netflix.com

出来事を順繰りに追いかけたドキュメンタリーなんだけれども、序盤から亡くなった人の思い出が丁寧に語られるのが結構辛い。本人が出てこないというのは恐らく……というメタ読みで、生存者の感情に寄り添ってしまう。やはり事実というのは凄まじい引力を持つものなのだな、真摯に向き合わなければならないものだな、と改めて思う。

しかし複雑な心情に陥るのは、ファカアリ島が無人島で観光のための場所である、ということだよなあ。火山の麓に住むのとはちょっと違って、あくまで観光資源としての場所で、しかも「いずれ噴火するかもしれない」ことが十分に予測できた場所だからなあ。山登りであれば、そりゃまあそれぞれが自分のリスクを十分に理解して……ということになるのだろうけれども、こういう観光のアクティビティみたいなところでこのくらいの安全性というのはなかなか厳しいなあと思う。

語られるエピソードはそれぞれ痛ましいし、心に響く。噴火後に政府が下した決断というのは確かに大変難しいものだろうけれども、しかし状況がわからないうちに動いて二次災害が起こるという危険性を考えると、コロナで有名になったあの首相でもそういう決断を下さざるを得なかったんだろうなあ。自分の判断で動いたパイロット達が英雄として描かれているけれども、まあ紙一重の行動ではあるよな……

それにしても、夫婦で火傷の手形がついているエピソードは本当に凄まじいなあ。どちらも命が助かって、本当に良かったなあ。

忍者に結婚は難しい

 

現代を舞台にした忍者モノ、というので見てみたんだけれども、いやーなかなか厳しいなあ。

日常のディテールなんかは「なるほどなるほど」と思うし、郵政族とか医療系とかで伊賀甲賀を色分けしたりとかするのはまあ納得なんだけれども、如何せん忍者の精神性みたいなのがスポイルされすぎというか……忍者だから当然自分の命を賭しての任務とか当たり前の世界観だと思っていたから、人殺しに躊躇するあたりで「えっ、えっ」となったよ。現代社会の裏にそういう組織が暗躍している、というハッタリをかますんだから、その程度の障害は余裕で乗り越えてもらえるものだと思ったぜ。

大ネタで不老不死みたいな超常的な忍術を持ってきておいて、それがぬるっと行われちゃうのもちょっと厳しいよなあ。一応科学考証が追いつくリアリティレベルでやっていて、そこだけファンタジーが入るところなんだから、回想形式でもいいのでその辺りをしっかりやってもらいたかった。

全体的にそういうぬるさでガッカリする展開なんだけれども、うーん、やっぱりふたりの秘密の隠蔽が一番食い足りなかったかなあ。お互いもっとバレそうになってハラハラ……ってのがこの立て付けじゃ一番美味しい所だと思うんだけど、結構ザックリばれるので「うーんこれでいいのか?」って感じ。そのあとの和解のパートとかはまあまあ良かったんだけど、ねえ……

繭、纏う

 

繭、纏う コミック 全6巻セット

繭、纏う コミック 全6巻セット

Amazon

普段あまり使わない脳の部分を使うやつだし読むの時間かかるだろなーと思って気合いを入れてページを開いたら、あっという間に通読していたのでビックリした。大駒も多いけどまあこんなにストレートなストーリーだとは思わなかったなあ。

全編通じて大変頭の良い内容で、あーはいはいそういうことをやるのねそうなるよね、という自分の理解が最初にあったのが大きいのかもしれない。学園が3年を繰り返すという意味でその構造が永遠である、というテーゼを女性の象徴である長い髪&それを編み込んだ制服という物体で表現した時点でまあ溜息が漏れますね。そのアイディアだけで満点でしょう。満点。

制服は繭であり内包物を守るもの、であると同時に拘束するものである、という両義性も、まあなんつーかストレートにわかりやすい内容で、それをここまでキッチリ読みやすくわかりやすく紡がれると「あーはいありがとうございます」という感じですね。ノルニルまでとても丁寧に置いてあって良い。

個人的にはライバルの3年生が王子様の手を放す所が最高にイカしてて、なるほどなあこういう風に外面から内面を描写するんだなあ、と溜息が出ますわね。やっぱ恋愛的な人間関係は他者性が存在しないとダメだもんなあ、というごくごく当たり前のことを改めて思い知らされた感じ。

トラクターの世界史 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち

 

ちゃんと調べてあって興味深いけど、時間のない人は最後の方のまとめを読めばOKって感じだな。そのくらいキッチリ看取り図が示してあって良い。

20世紀において農業は飛躍的に進歩したのは良く言われるし、ハーバー・ボッシュ法が食料供給を大きく変えた、というのもいくつかの文献であたったけど、それと並行してトラクターの導入が農業の大量生産の象徴だったという視点はなかなか抜け落ちがちなので楽しかった。直近で読んだ「カムイ伝」でも、堆肥の回収がひとつのテーマになっていたけれども、牛の糞尿がそのまま土壌に栄養を与えていた、みたいな視点は全然なかったので、なるほどなーって感じ。草の代わりにガソリンを動力源とする、だけじゃなかったのね。そしてその延長線上に帯水層を使った持続不可能な農業もあるわけか……

あとは、同じ大量生産への舵切りについても、資本主義と共産主義の下で全然進歩の仕方が違ったんだなーというのも大変面白い。やっぱり20世紀は冷戦の世紀だったんだなー。東西に分かれたドイツの状況が触れられているのもなかなか面白い所だよねえ。そして日本のヤンマーが世界で戦えているというのも大変面白い状況だよな。世界は大規模な農業できる場所ばかりじゃないもんねえ。

あとまあ難しいところだけれども、土壌圧縮とその解消についてのあたりは、もうちょっと科学的な観点からの補足が欲しかったかなーとは思う。ま、そこは贅沢かな。