ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

ブエノスアイレス

 

ウォン・カーウァイの映画はかなり観てたんだけど、なんでこの作品をスルーしていたのか意味がわからない。同性愛映画とか結構見てる方だと思うんだけどなあ。

しかし、なんなんだろうこれ。もちろんウォン・カーウァイ独特の絵作りに溜息が出るし、主演のふたりは熱演だし、で見所が大量にあるのはわかる。あるんだけど、なんかこう、すげー言語化しづらいって言うか。ストーリーは結局メチャクチャシンプルで、その他の出来事は大体全部枝葉末節、なんだけど、その枝葉の部分がむしろ作品の心臓である、みたいな。愛し合うふたりが重ねる日々、引き裂かれた後の日々、それが断片的に描かれて、その積み重ねこそが心に響くというか。突然ズガン! と差し込まれる地球の裏側カットのあのジーンとくる感じはなんなんだろう。脚本とかそういうレベルじゃ全然ないよね。主人公が彼を求めることと、地球の裏側の故郷を想うことに、論理的な繋がりなんてないわけだし。論理からの飛躍があるって本当に憧れるなあ。

なんて余韻に浸りながらWikipedia見たら、えー、トニー・レオンの同性愛者役への拒否感がすごくてビビる。画面からはそんなニュアンス全然感じなかったけどなあ。いやむしろその拒否感との微妙な力関係が画面の緊張感を作ってたのか? いやあ、面白いなあ。

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム

 

私バカなのでラストのあの決着の付け方まったく想像していなかったのだわ。いやあ、あんな謎の舞台でやり合うんだったら真っ先にピンとくるべき箇所ですよね。

大変楽しい娯楽作品で主役ふたりもカッコいいしライバルもそこそこ立ってるし趣好も凝ってるしかっこつけた映像もまあまあ機能しているし、で特段文句もなく楽しめたんだ。ちょっとしつこい気もするけれども、やっぱりスローモーションで決定的瞬間をブン回すあの演出が気持ちいいのは認めなきゃいけないよなあ。ラストの格闘はさすがにやり過ぎで吹いてしまったけど。あんだけ大仰な妄想シーン垂れ流して、そんなんで決着ついていいんかーい! まあでも原作があるからしょうがないよね、みたいな。

それにしても終始ヒロインがどうでもよくて、あー、最初に殺されちゃったあの人って前作のヒロインだったんだっけ? もし新作が出ても次の冒頭でこのヒロインが死んでも何も思わないよなー、みたいな感じ。結局主演ふたりの濃厚な絡みを堪能するお話なんだよね、たぶん。

にしてもなー、なんでチェスがあんなたるい見せ方になったんだろうなあ。ブリッツとか始まんのか!? と思ったから、あまりのスローテンポにつんのめったよ。

チェルノブイリの祈り――未来の物語

 

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

 

ホットな話題になってしまったな……

原子力事故関係では『朽ちていった命:被曝治療83日間の記録』を読んだことがあって、被爆によって少しずつ壊れていく人間の身体についてはちょっとだけイメージを持っていた。だからこそ、冒頭やラストを飾る女性視点のエピソードがきっつい。というか冒頭のエピソードがズルい。小説とかに書き起こしたら涙ちょうだいすぎてどうなの? と思うような内容も、言葉のひとつひとつが重くてもう……生の言葉の力を思い知らされるような作品だった。素人のインタビューは時に散漫で何を言っているのかよくわからないところも多々あるけれども、だからこそ伝わる生っぽさがあるというか。

印象深いのはソ連のやばさだよなあ。言葉の端々に、人々が政府を信頼していない感じが滲み出ていて、いやそりゃああんな事故があった直後だから当然かもしれないけど、それにしたって信頼されなさ過ぎじゃないの? とか思っていたら、

放射線とはいったいなにか? だれも聞いたことがなかった。ぼくはちょうどここにくるまえに民間防衛部の講習を受けて、三〇年前の情報を与えられていた。致死線量が五〇レントゲンというやつ。教わったのは、衝撃波を頭上でやりすごし、ダメージを受けないたおれ方。被曝とは。熱線とは。ところが、地域の放射能汚染がもっとも被害をもたらす要因だということは、ひとことも話してくれなかった。ぼくたちをチェルノブイリまで引率してきた職業将校たちもほとんど理解しておらず、知っていたのはウォッカを多めに飲まなくちゃならん、放射線に効くからということだけ。ミンスク郊外に駐留し、飲んでいた。

とかいう記述で納得する。それはやばい。

あと、「戦争の記憶」が深く根付いているのもよくわかる。人々が最悪の記憶として引き合いに出すものが、第二次世界大戦だったのだろうなあ、と。ちょくちょくアフガン戦が言及されるのも時代だなあという感じ。『戦争は女の顔をしていない』も読みたいなあ。

色々な人々のエピソードを引き出しているけれども、記憶に残るのは意外なシチュエーションの話だよなあ。一番印象深かったのは害虫駆除的に避難区域に残されたペットを殺す男たちの話。こういう事故を迂回した悲劇みたいなのが、かえって胸を打ったりするんだよなあ。

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ

 

アメコミってヒーローもので正義についての思索が色々深まってるってイメージが勝手にあるんだけど、なんで今更「誰かが犠牲になって苦悩」みたいなドラマが中心で語られているのかが全くわからない。強大な力をシビリアンコントロールすんの? ってテーマも、結局「真実を知っているものが正しい心を持って行動すれば間違いない」とかいうところに落ち着いちゃってない? それって最初に掲げられたテーマを無視してるように感じられるんだけど。むしろやるべきはキャプテン・アメリカが間違う話じゃないの? 「エイジ・オブ・ウルトロン」のAIの描き方もそうだけど、問題提起はすごく理解できるけど、アンサーがエンタメに押し潰されてなあなあになっちゃう感じがすごくする。

映画としては色んなヒーロー集めて集団戦! というのが大きな見せ場なのだろうけれども、感情的な軋轢が乗らない中盤のアリバイ作りみたいなバトルで、しかもアイディアにも乏しくうーん、という感じ。ここら辺はほんとうに、「エイジ・オブ・ウルトロン」のぐるぐるカメラが良くできてたよね。

デッドマン・ウォーキング

 

うーんこれまたじっくり殴りに来る映画だなー。いや、この内容で映画一本仕上げちゃおうって、ちょっと信じられないよね。どんだけ役者の芝居を信頼できたらこういうことができるんだ……

死刑についてあんまりよく考えたことなく、正直死刑が非人道的かどうかとかわりとどうでもいい話と受け取っているのと、あとやっぱり進行についての思索というか、罪の告白みたいな文化が全くピンとこないので、登場人物たちの苦悩があんまり上手く読み取れているようには思えないんだよなあ。所々聖書を引用して「ドヤ!」されるけど、その警句の含意するものとか全然想像できないもんなー。

とはいえ、子どもを失った親の悲しみだの、単純に自分が罪を犯したことを認められるかだの、そういう普遍的な部分でもちゃんと心を打たれるので、やっぱり力強い作品だなあと思う。葬儀の時に、罪の告白を受けた側が葬儀に来ていて、それが自分でも良く理解できてないのがすごくいい。

終始柵が目につく絵作りで、顔面アップがものすごく印象深いワケだけれども、その他も結構凝ってるよね。ラストのガラス越しの感じもすごくいいけれど、父親が失った息子の思い出を語りながらじっくりカメラを引くシーン、たまんないですね。

ブラック・サンデー

 

うーんたるい。なんでこんなにたるいのか。オレがパレスチナの辺りのあれやこれやに知識がなさ過ぎるのか。それともストーリーを重視しすぎてて役者の芝居や絵作りに興味が持てないからなのか。最近のアクション映画の密度になれてしまったからなのか。とにかくたるい。これだけの尺でやる内容なのかなあ……

例えば後半のスーパーボウルも、たくさん人はいて色々画も取ってあって贅沢な造りなのはわかるんだけど、しかしカットとカットの繋ぎ方にどうも違和感があるというか、何を見れば良いのかよくわからんなーと思いながら長さばかりを感じてしまうというか。うーん……でもクライマックスのあの間延びのしかたはひどいよなあ。火を付けて以下にも今すぐ爆発するように見せておいて、結局海の真上まで逃げられるとか、さっきのハラハラ演出は何だったんだよ! と呆れてしまう。

でもこれ、時代から見れば頑張っている、とかなのかなあ。さすがに今の映画のハラハラドキドキに比べてどうこう言うのはなんか間違っている気がする。もう少し人間ドラマとか捜査の妙とかにハラハラドキドキするべきなんだろうなあ。うーん……

マネーボール

 

マネーボール (字幕版)
 

反逆者が自分の信念を貫くことで逆境を跳ね返す話、のように一見思えるけれども実はだいぶ違う。前半の大変しんどい沈みパートで挑戦者のしんどさが画面のそこかしこから滲み出ており、もう見ているだけで胃がキリキリしそうなのだけれども、そのストレスが物語的に解消してスッキリするかというと全然そういう構成になっていない。そういう構造で最も重視されるべき「物事が上向いていくシークエンス」がまるっとカットされ、チームはいきなり20連勝へのプレッシャーと戦うことになる。ワールドシリーズを制覇してハッピーエンドにならなかったのは、現実に沿った物語だから? いやまあ、確かにそういう側面もあるだろうけれども、たぶんそれだけじゃない。

この物語で最も喜ばれるべきことは、試合に勝つことではなく、主人公の信念が野球界の思想を変えたことなのだ。彼の影響を受けてレッドソックスバンビーノの呪いを解くことこそが、この映画にとっての大きな勝利なのだ。物語の結論と、個人としての欲求が分離され、だから主人公は最後まで苦悩し続けるのだ。まだ彼自信の物語は終わっていないのだ。

しかしなあ、これもうちょっと自分の知っている業界でやられたら、たぶんこれ以上痛快なことはないんだろうなあ。メジャーリーグにもう少し知識があったらなあ、と思わずにはいられない。