ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する

 

まあ大体ふだん考えていることが書いてあって、自分の考えを確かめながら読むことができた。ソマリア内戦の後のフィクションが現実の世界に影響を及ぼした、みたいなところもふつーにちゃんと抑えてあって良い。そして返す刀で「物語が及ぼす悪影響」の話にもなるわけだけれども、自分としては「だからこそ多様な物語に多く触れなければならない」という方向に話が行くべきだと思うんだよなー。

この作者の結論は「物語を憎め」ということだけれども、そこで言われてるのは単純な「勧善懲悪の図式」とかで、「物語」って本来もっと多様な価値観を内包しうるものでしょう? 「バベル」とか例に出てたけどさ、例えば優れたドキュメンタリーって、主張を決して表に出さず、そこから多様な「因果関係」や「善悪の揺り動かし」を導くものじゃないですか。っていうかオレ、そういうことを普通にアメリカのドキュメンタリーで学んだよ。

確か村上春樹がオウム真理教の地下鉄サリンが終わって『アンダーグラウンド』書いて、そこで信者たちが「ジャンクな物語」に基づいて犯行をおこなったことに衝撃を受けたみたいなこと書いてたと思うけれども、そこで彼が目指したのは物語を捨てることではなくて、物語を豊かにすることじゃないのかな? そしてそれは、自分の視点を離れて異なる価値観に触れることのできる「物語」の特性があるからできることなんじゃないの? というふうに、オレは物語を積極的に利用するべきだと考えるんだけれども、まートランプ旋風を間近に見た人間が絶望してしまうのもわからんではないかなー。

あ、あと人文学がリベラル多いことにバイアスがかかるみたいなこと言ってるけれど、それって特性的にしょうがなくない? 学問って過去から未来に向けて真実に近づいていくという価値観を前提に研究するものだし、すると現在の価値観の誤りに対して異議を申し立てるのが当然の営みになってしまう気がするんだけれども……あそこらへんの、理系の学問に対する信頼なんかもあわせて、日本でも見る社会学への不信なんかはそういう思考回路なのかーというのはなんとなくわかった気がする。