ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

僕が愛したすべての君へ

 

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)

 

いやーひでー。いわゆる平行世界もので、それが社会に受け入れられるためにどんな紆余曲折があったかってところで過去の平行世界をテーマにした創作が大きな影響を、みたいな話があって、例えば『アバウト・タイム』のタイムトラベルの単純さなんかを引き合いに出したりするんだけど、いやー、その割には平行世界に対する考察が浅すぎますよねー。ここらへんの年齢層に受けるちょっとSFっぽい恋愛含みの小説のセンでいっちょ泣ける小説書きましょー的な安易さ醜悪さが先に出ちゃっていて隠しきれてない。大雑把な数字で世界の距離を測るの仕組みを「IP」という言葉のイメージで捉えるのが完璧に不適切だし、移動しても元の世界に戻ってくるというその仕組みは物語のつくりとしては安易極まりない。結局自分の意識世界が戻ることが確定されていたら、平行世界モノのおいしいネタである「全ての世界が平等である」というアイディアがスポイルされちゃう。

ま、でもとりあえずそこらへんをこの世界のルールとして受け入れるとして、そこから生じる社会的な問題が「平行世界に行って犯罪を犯したら裁けない」とかもうあまりに稚拙で笑ってしまった。馬鹿じゃないんだからさ、普通世界が変わったらその人物が監視下に置かれるとかやるでしょ普通。平行世界の移動から生まれる社会的変化さえこのレベルって、やっぱ考察が浅すぎると思います。

他の世界の人間が不幸になるのが決定的なアイディアになるはずなのに、平行世界の妻との別れはクッソ適当で、しかも戻ってきてから妻が殺人者の可能性のある主人公に苦悩を抱くところとか全然描かれなくて、それがあのちょーどうでも良いテキトー推理で躱せるような書き方なのはホントに呆れたし、「全ての世界の君を愛す」に関してはもう失笑も出なくて、そんな雑な動機づけて全ての世界の君を愛せたら苦労しないよ。それができないのが平行世界の面白味であって最大障壁のはずなのに、なにお座なりにちっさいエピソードで乗り越えちゃってんの? 雑だよ。

単純に小説が下手だよなあ。地の文で老人が「僕」を使うことの苦しさに「は?」と思いながら読み始めるけど、最初のエピソードでなんの捻りもなく宝物がエアガンだったのはもう恐怖すら覚えた。ヒロインはちょっと小悪魔的だけど、アレって本質的には情報隠せばいくらでもひっくり返せるビックリ演出に過ぎなくて、ビックリの向こうに何を感じさせるのかが大事だったりするんだけど、別にそういうのないもんなあ。日常の謎っぽいもので全体を牽引したところで、それを物語のなかに適切に位置づけられなくて、「あー雰囲気だけね」って小説でございました。