アバウト・タイム~愛おしい時間について~ [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
- 発売日: 2015/11/06
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (2件) を見る
オレ人生に許せない映画という枠があるんだけど、この映画はまさにソレ。あまりの怒りにテキストを書き始めたが、映画を観た余韻で感情が収まらない。クソ。クソ。何だ横のクソ映画。世界中がこの映画を評価しようとオレだけは絶対に否定してやる。クソ。
いやまあ稚拙とか志が低いとかだったらまあ別にこうも怒りは湧いてこないわけですよ。許せない映画という枠は、自分があるべきと思う倫理観を逸脱しているから起こるわけでありまして、この映画が感動を呼び込むために使っている演出テクニックは、下手にそれっぽく作品を「なんか良さそう」に見せてるだけに余計タチが悪い。っていうかこの作品に潜む根本的な詐術を理解してなおこんなお涙頂戴映画を創れたのだとしたら、それはとんでもなく厚い面の皮だと思います。
ぶっちゃけ全体的にタイムトラベルの扱いは雑ですが、何百回と繰り返したであろう日常のループと、そこからとっくの昔に気づくべき諸問題を、編集でカットしている部分には私なんの異論もございません。観客に気づかせてはいけない傷を演出上のテクニックで見えづらいようにして、作品のテーマを浮かび上がらせることに注力するのは映画として正しい方針だと思います。この作品では、他者の意識の連続性の扱いや元の時間にジャンプすることが可能な点など、そこはもうちょっと明確にしておこうぜ、という点もなくはないですが、ルールの厳密さにこだわるあまりそういった演出にケチをつけるのは、自分からするとちょっと作品を楽しむ余地を削いでしまっているよなあ、と思います。
けどね、問題なのはこの作品のタイムトラベルルールを根本から支える「赤ん坊」理論なワケですよ。過去を変えると些細なことで未来が変わり精子も変わるから赤ちゃんも変わっちゃうので赤ん坊有無かどうかがセーブポイントを作るかどうかの大きな分岐になるってヤツ。確かにそのアイディア自体はなかなか面白いしタイムトラベルものとして「おーそういう視点で展開するのは面白いな」と思わせられるわけです。
でもさ、その赤ん坊こそがこの作品が演出で必死に隠蔽してきた「一回性」と「主人公の責任」を明らかにしちゃってるんだよね。
そもそもこの作品、「過去へと遡ることにペナルティがない」タイムトラベルもので、当然些細な失敗をやり直すために主人公は何度も過去に戻る。で、自分の良いように過去を改変しまくるわけだけど、改変してしまった結果として変わってしまった未来を編集で極力見えないようにしている。じゃないと過去を気軽に変えられないから。でまあ、気軽に変わって切り捨てられていくifの世界の想いとかも、同様に注意深くカットされちゃってる。あの話の展開で行くと、ホントなら「あー失敗した今のナシナシはいリセットー」とか主人公は思っちゃってるはずなんだけど、主人公はそのような内面的薄っぺらさをあたかも持っていないかのように描かれているわけだ。
ところが一方、物語はラストに「一回性の毎日が大事だ」なんてクッソ薄っぺらい常識的結論になんとなーく流れで帰結しなければならない。人生は一度きり! だから毎日を大切に生きよう! まあクッソ薄っぺらいけれども物語の結末としては非常にまっとうですね。
でもどうやってその両者を接続するの? ということで要請されたのが、「今のナシナシはいリセットー」の向こう側にあった赤ん坊なワケです。なるほどそうかー赤ん坊の遺伝子情報が変わっちゃったらマズいよねやっぱりリセットとかあんまり良くないんだ! 今日を大事に生きよう!!
え? でもちょっと待って! でも今まで君は散々「今のナシナシはいリセットー」し続けてきたよね? 赤ん坊というギミックを使って「過去を変えることで罪のない赤ん坊の人生を変えてしまうのだ!」という責任を生じさせたけど、主人公は今まで散々他人の人生を変えてきたよね? っつーか、本来ならそのまま結婚して幸せに結婚できたかもしれない別の男との出会いを潰して、彼女を自分のものにしたよね? うまく編集で隠蔽されていたけれど、その先にも、主人公が愛した赤ん坊の将来と同じ、彼と彼女の幸せな結婚生活があったかもしれないよね? 身内の変化で過去改変の倫理に気づいたけれども、そこで編集済の未来への想像力を働かせるなら、愛する妻のありえたかもしれないもうひとつの人生にも想いを馳せるべきだよね? もしも赤ん坊でifの世界を作品の俎上にあげるなら、主人公は自分が選んできた未来のエゴイスティックで残酷な側面に、きちんと向き合わなきゃならないはずだよね?
それなのに、なに親子で一回性のある人生を生きるいい話とかでオチつけちゃってんの? あのエンディングだって、どうせ娘が死んだりしたら、容赦なく時間を巻き戻すわけでしょ? っていうか妹が事故で何の傷害もなく復帰できるような「世界に愛された」主人公でありながらなんで父の死を乗り越えたみたいないい話にしちゃってんの? 妹を半身不随にして自分が行ってきた過去の選択の重みに苦悩しろよ! それなしで卓球して海辺走って感動のヒューマンドラマでございやられたって、「コイツ自分の好き勝手に過去を改変して他人を不幸にした上に、その好意にさえ自覚的じゃないクソ野郎ですがこれのどこで感動しろと?」にしかならねーよ!
赤ん坊のアレさえなければ、「ああ、そこは演出上問題になるのできちんと排除してありますね。それはそれで一つの正しい作品作りの態度ではないでしょうか。オレは好きじゃないけど」で済んだのになー。
あー、クソ。ホントにクソ。そういう作品の不誠実さは、絶対に許せない。