前評判というか、ファンの人が盛り上がりすぎてて、正直ヒいていた。君たちがこの作品を愛しているのは分かった。分かったけど、ちょっと重すぎてその愛は周囲に伝わらないんじゃないの? 本当にみんなが観て「いいなあ」と思える映画なの? で、観た。
果たして、「いいなあ」と思える映画だった。
正直「泣きました!」っていう感想は大嫌いだ。感動の押し売りなんてヘドが出る。俺なんかはヘソまがりだから、人間の感情を揺さぶるためのストーリーの手管をどうやって見いだしてやろうか、なんて態度で映画に向き合う。
でもこの映画は、信じられないくらいに強く心を揺さぶった。
感動させる手管はむしろ抑揚されている。もちろん舞台が舞台なだけに、不幸はある。悲劇もある。でもそれは、決して観客に感動を押し売りするのではなく、むしろ抑えようとしても抑えきれない何かが作品の内側から噴出してくる形で表現されるように思える。適切な演出が、画面で表現されるもの以上の衝動を与えてくる。
ああ、それにしてもこの作品の愛おしさは何だろう。自分でもわけがわからないほどに愛おしい。本当に人の感情を揺さぶるのは、何気ない日常の素振り、誰かがそこに生きていることに対する共感なのかもしれない。そんな世界の片隅を丁寧に描こうとする作り手の愛情なのかもしれない。自分はつい、映画の向こうに読んだこともない原作への敬意を読み取ってしまって、余計に感動してしまった。
作品が世の中に生まれて良かったと心から思える作品は少ない。なんの衒いもなく、この作品と出会えることができて幸せだったと思う。