ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

クイックセーブ&ロード

クイックセーブ&ロード (ガガガ文庫)

クイックセーブ&ロード (ガガガ文庫)

ルールへの練り込みが足りない。
この小説における「クイックセーブ」と「ロード」はあまりにも制限がなさ過ぎる。主人公がごく常識的な知恵を持っているならば、彼は彼と同様の立場にいるキャラクターが存在しない限り、どのような状況におかれても危機に陥ることはない。
一方物語という観点から見ると、小説は主人公が危機に陥り盛り上がりを創る必要がある。ルールを提示された時点で危機に陥るための方法は簡単に連想できるのだから、この小説は「いかに説得力をもった状態で、主人公が危機に陥るか」に注意を払わなければならない。

ところが作品を読み進めると、主人公はまるで突然の思いつきであるかのようにヘマを犯し、取り返しのつかないような危機が訪れる。これではまったく、主人公がごく常識的な知恵を持っていないようで、読者が彼の行動に同情できるはずがない。

さらに残念なのは、一度犯した失策がどう挽回されているかである。彼は「自分の人生の記憶」と引き替えにもう一度人生をやり直すという重大な決断を下したはずなのだが、読み進めてみればその決断は主人公に対するペナルティになっていない。加えて明らかに都合の良いタイミングで主人公の記憶がよみがえるあたりは、ルールの設定が甘かったと言うしかないだろう。

「クイックセーブ&ロード」という能力は万能だ。何か仕組みを変えない限り、主人公をサスペンスタッチで危機に追い込むことは不可能なように思えてならない。


そもそも、主人公がメタ視点を持つことに対する考察が足りない気がする。
たとえば彼はなぜ、ヒロインの母親を救おうとしなかったのか? もしも本当にヒロインを幸せにしたいのなら、彼がもう一度人生をやり直して、母親の過去を修正するべきだった。だが彼はその方法を選ばない。主人公は「幸せになるべき人」と「不幸になってしまう人」を自分の意志で線引きしているのである。
もちろん、世の中には不幸が満ちている。主人公の「誰かを幸せにできる能力」は、「誰かを不幸のまま見捨てる権利」でもあるのだ――なんてところを突き詰めていっても面白いんじゃないかと思う。
全然別の話だけど。


以下雑感
・最近ループ物やゲーム的な仕組みを組み込んだライトノベルをちょこちょこ見るようになったが、外側だけをガジェットとして組み込んだだけといった印象が強い。
・なんだかんだで引っかかりなく読めるので文章自体は悪くない。主人公の失策後の描き方なんかは巧い。
・各キャラクターの行動がただミスリードするためだけになってしまうきらいがあるか。もう少し納得のいく種明かしがあってもいい。
・先輩の立ち位置はちょっと最近多すぎるのでなんともなあ。でも実際にああいうのが文芸部とかにいたりするので困る。体験談である。あと最強先輩に兄の匂いをかがれている主人公というポジショニングは素敵だと思います。