- 作者: スベトラーナ・アレクシエービッチ,松本妙子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/06/16
- メディア: 文庫
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ホットな話題になってしまったな……
原子力事故関係では『朽ちていった命:被曝治療83日間の記録』を読んだことがあって、被爆によって少しずつ壊れていく人間の身体についてはちょっとだけイメージを持っていた。だからこそ、冒頭やラストを飾る女性視点のエピソードがきっつい。というか冒頭のエピソードがズルい。小説とかに書き起こしたら涙ちょうだいすぎてどうなの? と思うような内容も、言葉のひとつひとつが重くてもう……生の言葉の力を思い知らされるような作品だった。素人のインタビューは時に散漫で何を言っているのかよくわからないところも多々あるけれども、だからこそ伝わる生っぽさがあるというか。
印象深いのはソ連のやばさだよなあ。言葉の端々に、人々が政府を信頼していない感じが滲み出ていて、いやそりゃああんな事故があった直後だから当然かもしれないけど、それにしたって信頼されなさ過ぎじゃないの? とか思っていたら、
放射線とはいったいなにか? だれも聞いたことがなかった。ぼくはちょうどここにくるまえに民間防衛部の講習を受けて、三〇年前の情報を与えられていた。致死線量が五〇レントゲンというやつ。教わったのは、衝撃波を頭上でやりすごし、ダメージを受けないたおれ方。被曝とは。熱線とは。ところが、地域の放射能汚染がもっとも被害をもたらす要因だということは、ひとことも話してくれなかった。ぼくたちをチェルノブイリまで引率してきた職業将校たちもほとんど理解しておらず、知っていたのはウォッカを多めに飲まなくちゃならん、放射線に効くからということだけ。ミンスク郊外に駐留し、飲んでいた。
とかいう記述で納得する。それはやばい。
あと、「戦争の記憶」が深く根付いているのもよくわかる。人々が最悪の記憶として引き合いに出すものが、第二次世界大戦だったのだろうなあ、と。ちょくちょくアフガン戦が言及されるのも時代だなあという感じ。『戦争は女の顔をしていない』も読みたいなあ。
色々な人々のエピソードを引き出しているけれども、記憶に残るのは意外なシチュエーションの話だよなあ。一番印象深かったのは害虫駆除的に避難区域に残されたペットを殺す男たちの話。こういう事故を迂回した悲劇みたいなのが、かえって胸を打ったりするんだよなあ。