ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

羆嵐

羆嵐 (新潮文庫)

羆嵐 (新潮文庫)

北海道で実際にあった三毛別羆事件のドキュメンタリー。
Wikipediaの記事があまりにも詳しく、あまりにも熱が入っていたので、つい事件について興味が湧いた。

概要はおおよそWikipediaに書かれていたとおりなのだが、特に印象深かったのは羆と自然の描かれ方だった。
人間は自然を切り開いて入植するように見えるが、しかし完全に屈服させ、勝利を得ることはできない。偉大なる自然は何度も人間の前に立ちはだかり、例えばこの作品における羆のような形で、人間の前に立ちはだかる。

人間は自然と対立するのではなく、自然の中に溶け込まねばならない。死者を土に埋め、その土の恵みで穀物を得る。夜の闇を恐れつつも、自らその中に溶け込む。羆に仲間を喰われながら、その羆の肉を口にする。

この作品において、羆の描写は抽象的で、多くが「闇」のイメージとともに語られる。クライマックス、マタギと羆が一対一で向き合うシーンですら、具体的な外見の描写はない。それは羆が単なる動物ではなく、人間が恐れる自然の象徴であることの証左だろう。