ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

これは犬の血統が語るクロニクルであり、時空を超えたいななきが語る神話だ。
力強い言葉の連なりは偶然性さえねじ伏せて、フィクションがノンフィクションを食い破り、物語をいっそうの高みへと押し上げる。

圧巻。まともな物語はもう語れないんじゃないかと思っていた最近の自分を恥じる。

東西に別れた犬の末裔がベトナムの地下で出会い、殺し合い、子供を成す。地下で生まれた新たな命が、地上に出て月を臨む。背後から声がかかる。「泣いているのか?」
ああ、泣いている。しかし、わからない。どうすればこの感動を、言葉で説明できるのだろう?

数多の物語で繰り返される人間と犬の会話、すれ違いばかりの台詞の応酬の中で、確かに通じる大切な想い。
そして読者である自分は、読み進むうちに震えに襲われる。地の文の中で、語り手と「お前」の言葉は完全に通じ合っている。溜息、溜息、溜息。