ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

日本上空いらっしゃいませ 1巻全部

日本上空いらっしゃいませ (HJ文庫 (さ02-01-01))
佐々原史緒 タスクオーナ
ホビージャパン (2007/11/01)
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テロリスト襲撃で主人公が走る喜びを取り戻す。ヒロインにライバル登場でトライアスロン大会。書き下ろしで「いずれ分かれねばならない」ふたりの運命が明示される。

前回の提案は間違い。フォーマットはオチモノというよりもむしろ「ロミオとジュリエット」。ただし悲劇の比重はヒロイン側に寄っているような印象。

主人公の走る喜びを取り戻すシークエンスはかなり疑問。主人公が走れなくなった原因には、ケガをした途端手のひらを返したような周囲の人間への不審があったはず。危機に直面した主人公が「自ら走ることを望む」ためには、それまで走れなかったことに対する十分な重み付けが必要ではないか? 走るシーンで「もしオレがここで間に合わなかったら?」と恐怖に襲われる場面を書くなど。現状、かつてのトラウマは忘れ去られているだけで、解消されているようには思えなかった。

ロミオとジュリエット」の恋愛に対立する「大人」は決して矮小化されて書かれるべきではない。「大人」の理屈の強固さ・正しさが強まれば強まるほど、それを「愛」が打ち破ることへの期待が高まるのであり、「大人」の正しさを強調しないままに、周囲の人間が「愛」を擁護するようなラストの書き下ろしは甘いのではないか?

ボーイ・ミーツ・ガールでロミオとジュリエットの悲劇がこれだけ明確に言及されている以上、悲劇を回避する手段はやはりこの作品ならではのギミックを起点にするべきだと考える。主人公にとっての「走る」という行動が単なる肉体的な行為ではなく、またヒロインにとっての「魔法」がこの作品ならではの意味合いを帯びるようになり、両者が象徴的な意味で組み合わさることで、初めてこの作品の骨子たる「悲劇」が覆される――というのが求められる物語の構造ではないか。