ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

欲望という名の電車

 

欲望という名の電車(字幕版)

欲望という名の電車(字幕版)

 

 おー、これは確かに『ブルージャスミン』を思い出すなあ。あっちの方はケイト・ブランシェットがすげー熱演だったけれども、こっちのヴィヴィアン・リーもなかなか。でもこっちはマーロン・ブランドもかなりガンガンきていて、姉妹も含めて家族の話という側面が大変強いのだけれども、まーどっちかというとあの家自体に謎の吸引力がある感じだよなあ。欲望行きの電車に乗ってたどり着いた先、という状況が大変良く生きている。ストーリーの都合も合って盛んにライティングを意識させてみたり、内部と外部のペラペラさを音で示すのも最高。舞台の上下の位置関係を活かした演出もさすがで、お湯を垂らすのは爆笑だし、逃げ込む先への階段のカーブがメチャクチャ良く聞いているよね。

にしてもモノクロ映画の心理劇ってかなり効くなあ。『サイコ』観た時はまずオープニングの時点で心臓キューッとなってそのまま見入っちゃったわけだけど、きっとあれカラーだったらそこまで恐くなかったよね。この映画も、モノクロで女優のアップになるだけで恐いし、ライティングでシルエット強調されるだけで恐いし、汽車の効果音がガンガン鳴りまくるだけで恐い。最近だと『回転』とかもそうだけど、映像的な手管が少ないからこそ、女優のアップと効果音と脚本でドストレートに心理の崩壊をぶつけてくる感じ。

チャーリー

 

チャーリー [Blu-ray]

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ハリウッドの自己言及ってすげーよなあ。自分たちが作っている作品群を、作品そのものによって再定義することで、きっと現在の創作にも良いフィードバックがあるんろうなあ、と思わされる作品。いや最後に「ちゃんとハリウッドは反省しましたよ!」という感動的シーンを入れてしまう根性にはゲヘヘへへと変な笑いが漏れてしまうけどね。初めてハリウッドを訪れたシークエンスでフィルムのカットがマジックを生むあたりを描かれると、無条件に好感を持ってしまうよねえ。

チャップリンの映画は意識して集中的に見たりはしないんだけど、この映画で触れられていて見てなかったのは『キッド』『独裁者』くらいだったので自分でも驚いた。なんだかんだ合間合間にふれてたっぽい。ってかオレみたいなテキトーな映画ファンでもちゃんと押さえてしまっているあたりがチャップリンの偉大さなのかしらん。個人的に一番好きなのは『モダンタイムス』の歌うシーンだったので、トーキーへと移行する狭間でチャップリンが苦悩している理由になるほどなーと納得。こういう技術の進歩によって拡張された表現を、意味有る形で作品内に取り込まれるのにホント弱いんだなーオレ。

老チャップリンへの聞き取り回想という構造が示すとおり散漫で、いやそんな編集で次に行くの? と感じたりとか、あと後半突然顔を出すチャップリンロリコン疑惑のとってつけた感じとかはうーん乗り切れんなあと思うところも多々あるけれども、それでもそんなに嫌いにはなれないなあと思いました。

ドクトル・ジバゴ

 

ドクトル・ジバゴ アニバーサリーエディション [Blu-ray]

ドクトル・ジバゴ アニバーサリーエディション [Blu-ray]

 

デヴィッド・リーンってすげー監督だなあ。『アラビアのロレンス』もそのスペクタクルと長尺に度肝を抜かれたけど、アレはまあ民族的なバックグラウンドがあるし、なにより戦争物じゃないですか。だからまあアレだけ予算かけるのもわからんでもないと思うんですよ。でもこの映画って、最高に地味な話じゃないですか。ロシアのくそ寒い風景をバックにして、ひとりの男が愛とロシア革命の狭間で翻弄される姿を追っかける様を、この長尺で普通撮ります? それでコレだけ面白く興味切らさず観れます? いやー、ワケわからんわこの監督。『戦場にかける橋』が全然ダメだったのは一体なんなんだろう。オレのコンディションの問題なのかしら。

ストーリーは結構ご都合主義で、いやそこでその人に会うのかよという偶然性によって支えられているところがあるけれども、その都合さえ運命的な恋愛を成就させるための必須パーツとして利用されていて、あーうんそれはしょうがないよねーと納得させられている感じ。なにより主人公のストイックな生き方に大変好感が持てて、捕虜になって脱走した後の雪原放浪シーンの説得力が堪らない。ロシアの大雪原をポツンと歩く主人公の姿は、アラビアの砂漠とか『砂の器』とか思い出しちゃうよね。まーこの男なら浮気したってしょうがないよね(しょうがなくない)。

しかし終盤、雪に覆われたあの屋敷の美しさはすげえよなあ。全てを捨覚悟をしてあの屋敷に入って詩を作る……うーん、なんでこんなに感心させられてしまうんだろう。この長尺で人生を追いかけてこなかったらきっとこんな感慨はなかったんだろうなあ。

うーん、とにかく言語化できない監督だ。

父、帰る

 

父、帰る [DVD]

父、帰る [DVD]

 

あらまあ素敵な映画。冒頭の飛び降りから走っての追いかけっこから目が離せないけれども、そこに父が帰ってくるとかほんと素晴らしい導入ですよねこれ。

そしてとにかく父がわからない。なんなんだあの父は。突然帰られても他人だし母ともなんかよそよそしげだし電話の相手もよくわからんし謎の島でサバイバルだしマジでよくわからん。そして箱。まさにブラックボックス。映画はそこに大いなる謎をおいて終わってしまう。でもそれはこの映画のテーマをそのものであるわけで、その謎を呆気ない死がポーンと正当化してしまう脚本がズルい。あのドラマティックな展開から唐突に挟み込まれる死の衝撃たるや! あんなカメラもう一生忘れられないじゃないですかマジで。

でまあ、ホントに面白いのはそこから先、たったふたり残された兄弟が死体を連れて島から戻るパートで、この短い期間でちゃんと伝わるべきものが伝わっているのが本当に良く描けてる。あーそうかー中身はわからんでもいいんだなあ。そうだよなあ突然船って沈んだりするんだよなあ。そういうものだよなあ。

そして有無を言わせぬ広大なロシアの自然。ちっぽけな人間。簡単に人は死ぬ、ということをこれ以上ないくらいはっきりと見せつけてきやがる。

バーフバリ2 王の凱旋

 

バーフバリ2 王の凱旋(字幕版)
 

ふざけんな! オレはもう二度と「あらすじあるから2からでいいよ」なんて言葉に騙されねえぞ! 1見てからじゃねぇと肝心の所が楽しめねぇ映画じゃねえか! どうしてくれるんだ!

という感情になったのはもちろん映画がすげえしっかりしているからで、なんつーか最近のスター・ウォーズよりもよっぽど神話してますね。シヴァ神=母が「過たない」という前提で国の政治を司っている所から始まって、当初は母と同一化した神としての存在だったバーフバリが、人間の妻を娶ることで人間としての苦悩に向き合わなければならない話で、まあドストレートに神から王への政の移行を描いてるよね。特にシヴァ神が過ちを犯すあたりの展開はちょースリリングで、神が妬みを持つ人間によって過ちを犯して身を滅ぼすなんてあなた、どんだけ真面目なんですか。いやまあもちろん見た目のテンションとかテーマソングの勢いとかに「うおおおおおおお」ってなるのもわかるんだけど、そこら辺の神話的な背骨がちょーしっかりしてるからこそ乗れるという視点はしっかりもっておきたいですね。王権神授説。

しかしそうやって見るとですね、時間が戻って息子の代の話がサッパリよくわからんわけですよ。神から人に下ってなお高潔な振る舞いを続けた父とは違って、息子は血なまぐさい復讐の化身なワケじゃないですか。母という存在をテコにすればなんとなーくどんな立ち位置かは推測できるけど、でも所詮推測は推測で、登場からいきなりガネーシャひっぱって暴れ象に祝福されるようなわっかりやすーいエピソードがないわけですよ。なんか属性的には植物由来っぽいけれども、その理由も全然わからないわけですよ。鎖の暗喩とかもなんかありそうだけれども大丈夫なのかなー普通にストレートな解釈で良いのかなーカースト制の国だしなんかありそうだなーとか余計なことも考えてしまうわけですよ。作品の大部分で、神として人としてあるべき振る舞いを続けた父とは全く違うキャラクターが突然ぽーんと出てきて大暴れされても、オレは全然気分が乗らないわけですよ。

いやー、もっと余計な考えなしに楽しめたはずなのに、ホント残念。これって1を見てたら感想違いますよねたぶん。

真剣師小池重明

 

真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)

真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)

 

確か小池重明のドキュメンタリーはだいぶ前にテレビで見た気がするんだけど、そもそも真剣師自体をそこまではっきりイメージできてるわけではなかったので、まずそこが興味深かった。『5五の龍』だってかなり誇張されて描かれてるっぽいしね。『ハチワンダイバー』と前後して読んだので余計に面白かったのもある。

そもそも団鬼六の本ってコレが読んだの初めてかもなあ。SMとかの書籍で有名なひとだけど将棋も強い、ってくらいのことは知っていたけど、将棋ジャーナルやってたくらいだったのか。真面目な将棋ファンに対してどうやって振る舞うかにいちいち頭を悩ませてるのが面白いし、あー将棋界ってある種のムラ社会なんだなあと思わされる。やっぱ将棋ばかりに没頭した人間が集まる場所だから当然閉塞しちゃうよねえ。

ところがこの小説なんだけれど、ある種将棋からは距離を置いていて、人間小池重明を描くところに注力しているのがすごいなあと思う。下手に将棋が強いと、彼の指した手が如何に素晴らしいかを伝えようとかしちゃいがちじゃないですか。まして彼の将棋はプロをドンドン打ち負かしちゃうくらい一級品だったわけでしょ? でもこの小説で描かれる将棋の強さって、かなり小池重明って人間ありきで描かれていて、その詳細には踏み込まずイメージで伝えることを徹底してるんだよなあ。

で、まあ本人もかなり書いてるんだけど、その描写はどう考えても人間小池重明の魅力がもたらしたものだよねコレ。棋士として一級品の才能を持ちながらも、女と金で身を持ち崩してしまった憐れな男。将棋そのものよりも、むしろそんなどうしようもない人間の一生への興味がこの本の根本の動機にあるようで、いやあ魅力的な本だなあと思いました。

ツリー・オブ・ライフ

 

ツリー・オブ・ライフ [Blu-ray]

ツリー・オブ・ライフ [Blu-ray]

 

うーんすごい……これはすごいぞ……いきなりタルコフスキー感ビシバシ感じる導入で映像の詩みたいなのが炸裂していて「本当に大丈夫かな?」と思ったけど大丈夫だった。人類の歴史が突然差し込まれたときは最高に面食らったけど、でもなー、あのクオリティで観たことのない絵面を連発されるとなー、参りましたって感じだよなー。さすがに恐竜がやってきた時はCG感に「え!?」ってなったけど。

なんにせよそれだけデカい人類の歴史を後ろに敷かれたものだから、その後やってくる樹の枝葉のストーリーもものすごい流れの中のひとつとして大変運命的に見えてしまうわけで、しかも語られているのは時間を操作した成長と死を中心とした物語で、いやもう物語と言うにはあまりにも散文的で普通の意味のストーリーではないのだけれども、でもこうやって見せられると人生って原初の物語なのだよなあということを強く意識させられる。たぶん色々含意を見落としている気はするのだけれども。

そしてまあテレンス・マリックの映像ですよねー。『レヴェナント』でも広角でグイグイ動くカメラをやっていたけれども、あっちはぐおーって長回し目なのに比べて、こっちはジャンプカットでまさに人生の1ページを切り取った感じ。狭い部屋の人間の動きの断片があんなに愛おしく見えてしまうんだからなー。対比される現代のショーン・ペンのオフィスの映像もいちいちバシッと決まってるし、うーん、長尺の映画なのにこんなに没頭できるとは思わなかった。すげー映画だわ。