ガチラノ

死ぬほどどうでも良いわ…

ワンダーウーマン

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『スーパーマンvsバットマン』を見たらわかると思うんだけどとにかくワンダーウーマンが謎で、謎なんだけど強くてしかも謎の説得力があって、いやコイツそもそもなんなん? マジで何? と思っていたのだけれども意外と自然と受け入れられる内容でビックリした。正直出来事が順繰りに展開していくタルめの展開でもうちょっとスピーディーにできないのかなあとは思わなくもないけれど、単体のエピソードはなんだかんだちゃんと魅せるつくりになっているので、この異物を馴染ませるためにはやっぱ必要なのかなあ。あのドギツイ衣装をイギリスのファッションと絡めてわかりやすい物語的対比に落とし込んだ辺りとか、なかなか細かな手管も機能してますね。

しかしラストのイヤボーンの辺りがちょっと納得いかないところもあって、あの転向を全て「愛」という大雑把なワードで括るのにはもう半ステップくらい手続きが必要な気がする。プロット上は結構強引な敵役の設定で「人間の愚かさを受け入れられるかどうか」になってると思うんだけど、それって主人公の自爆特攻と関連性が薄くない? わざとらしすぎるキーンカットバック「聞こえてたんかい!!」が悪印象だったのかもしれないけど。あそこで時計という人間の愚かさの象徴であるアイテムを受け取るんだから、やっぱりあの時計を受け取った瞬間に、ワンダーウーマンは人間の愚かさを赦し受け入れるような行動を取れないとマズい気がするんだよなあ。毒ガス攻撃を絡めて主人公に明らかに愚かな行動をとらせるとか、色々やりようはあると思うんだけどなあ。

第二次世界大戦:アリューシャン列島の記録

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いやー、ハリウッドでも著名な映画監督が戦争のドキュメンタリー撮ってたんだなあ……とはいいつつも、前に見たジョン・フォードの映画よりも全然プロパガンダっぽさは薄くて、基本的には淡々と事実をレポートしている感じ。しかしその分内容に目が滑ってしまう感じも拭えず、物語の吸引力って怖いなあと思わされる。もう少しアリューシャン列島の自然が美しく見れたらまた違ったのだろうけれども、目が粗くコントラストが濃すぎるので、自然を移すにはまだちょっと向いてないカラー映像だよね。

面白かったのは兵站の話なんかに結構時間を割いているところで、荷役のシーンとかもしっかり移していて楽しい。そうだよなああんな所に何千人と人を運んで作戦行動させるんだから、そりゃあ港の整備が大変だよなあ。

あとはなんと言っても爆撃機。プロパガンダっぽさが薄いって話はしたけれども、それってあの爆撃機の説得力さえあれば無駄な装飾は要らんだろって話なのかもしれない。低いプロペラ音を響かせながら悠然とキスカ島を目指す飛行機群。音もなく次々に落下していく爆弾。俯瞰望遠ショットの凄まじい美しさに、いかんとは思いながらもうっとり見入ってしまいますねあれは……

スウィンガーズ

 

スウィンガーズ [Blu-ray]

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うーんすごい。ダンス一発。ダンスシーンが出るとテンション上がるタイプの私ですが、ここまでダンス一発でボカンと決めちゃうストレートさを持った映画ってなかなかない。それ以外はショボい、というか意図的にそれ以外の場所をショボくしてるようなかんじもあって、それがまあなんとも良い味になっちゃってる。合間にまあ映画好きな若者って感じのどーしょーもないパロディが挟まるんだけど、そのどーしょーもなさも含めて愛おしさがあるなあ。いやダンス前の大事な対話シーンの切り返しがジャスピンじゃないのはさすがにどーにかしろよーと思ったけど。グッドフェローズのライティングの話してる場合じゃないんじゃないのーと。いやあれも意図的? いやいやいや。

しかしまあ、ほんとダンス一発の映画だよなあ。曲が途端に変わる外し方からの逆転劇! あまりの最高さに私友人にもらい泣きしてしまいそうでございましたよ。そりゃあ机の上でブンブン上着振り回しちゃうよね。そこから電話でキャッチが入るあの展開とかも急にドラマティックじゃないですか。するとラストの例の対面イスを平行に撮るショットまでバッチリ決まって、ラストの恥ずかし方もバッチリ決まってる。

うーん、どう考えてもラストの展開がすごすぎるなあ。序盤全然乗れなかったんだけど、もうちょっと細かい文脈とか気の利いた言い回しとか理解できてれば印象違うのかしらん?

神々の歩法

 

神々の歩法 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作

神々の歩法 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作

 

『ウは宇宙ヤバイのウ』も普通に「あーSFのひとだー」って内容でございましたが、あーガチでシリアスに描くとこういうお話になるのね。自分ちゃんとSFを読んでないので単純にうおーおもしれーと思いながら読んでしまったよ。

『ウは宇宙ヤバイのウ』で一番面白かったのはとんでもないモノを食べるあの描写のトンデモ感で、あーこれは映像表現が大変な文章ならではのワンダーなんだろうなあと思ったんだけど、この小説はその感覚のオンパレード。序盤の3Dエフェクトゴリゴリの映像的にチョー生えるバトルが描けるんだろうなあって銃撃戦もメチャクチャ素晴らしいけど、真骨頂はそこから先の「人間には知覚できない感覚の描写」よね。三次元空間からの飛躍はたぶんSFだとちょくちょく行われていると思うんだけど、自分はあんまり耐性がないものだから、文字情報から誘発させられる新たな世界のイメージに興奮でありますよ。そうかー文章ってこういう使い方ができるんだなーと感心させられた次第。

美少女ヒロインの能力目覚めでのノーコントロールの人殺しなんてベタベタな題材をメインに据えつつも、こんなエンタメ値高く描ききるのはすごいよなー。解説にもありましたが、物語もきちんと畳んでちょっと綺麗に畳みすぎかなーってくらい。いやはやおもしろい。

生ポアニキ

 

生ポアニキ (オーバーラップ文庫)

生ポアニキ (オーバーラップ文庫)

 

この作者の小説はずいぶん読んでなかったんだけど、いやーさすがベテランうめーわ。うめー。タイトルからもわかるように完璧色物枠として見せつつも主人公のビルドゥングスロマンになっていてその構造が超強固で、色んな人のシリアスドラマを垣間見せつつモブライクなサブキャラも巻き込んで成長させちゃってという、安心安全楽しんで読める内容となっております。おもしろい。

なににつけてもアニキの描写が素晴らしく、いやまあもちろんなんでか知らないけど筋トレに巻き込まれて日常の鬱屈を昇華させることに説得力を持たせることに成功させちゃっている地の文の力も素晴らしいのだけれども、それはどう考えてもアニキのキャラクターがあるから成立するのだった。ネットジャーゴンがバックグラウンド。基本に忠実。アイディア豊富。キャラ付けは揺るがず徹底。途中できちんと人間としての弱みを見せる。いやー、グレイト。

あと普通に上手いのが解明の焦らしというか、「え? え? なんでそれに突っ込まないの?」と疑問を抱かせながらも強引に物語を進める手管だよね。まあここまでわざとらしくやられると笑っちゃうけど、でもこの主人公とアニキのキャラがそれをちゃんと成立させちゃってるもんなあ。

あと食べ物描写は謎。いや全然謎でもなくて、テーマ的にはまあ周辺にこういう知識は必須だよねという分野ではあるんだけど、でも明らかに小説の内容からはみ出した描写がなされていてつい笑ってしまう。とても良い。

僕が愛したすべての君へ

 

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)

僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)

 

いやーひでー。いわゆる平行世界もので、それが社会に受け入れられるためにどんな紆余曲折があったかってところで過去の平行世界をテーマにした創作が大きな影響を、みたいな話があって、例えば『アバウト・タイム』のタイムトラベルの単純さなんかを引き合いに出したりするんだけど、いやー、その割には平行世界に対する考察が浅すぎますよねー。ここらへんの年齢層に受けるちょっとSFっぽい恋愛含みの小説のセンでいっちょ泣ける小説書きましょー的な安易さ醜悪さが先に出ちゃっていて隠しきれてない。大雑把な数字で世界の距離を測るの仕組みを「IP」という言葉のイメージで捉えるのが完璧に不適切だし、移動しても元の世界に戻ってくるというその仕組みは物語のつくりとしては安易極まりない。結局自分の意識世界が戻ることが確定されていたら、平行世界モノのおいしいネタである「全ての世界が平等である」というアイディアがスポイルされちゃう。

ま、でもとりあえずそこらへんをこの世界のルールとして受け入れるとして、そこから生じる社会的な問題が「平行世界に行って犯罪を犯したら裁けない」とかもうあまりに稚拙で笑ってしまった。馬鹿じゃないんだからさ、普通世界が変わったらその人物が監視下に置かれるとかやるでしょ普通。平行世界の移動から生まれる社会的変化さえこのレベルって、やっぱ考察が浅すぎると思います。

他の世界の人間が不幸になるのが決定的なアイディアになるはずなのに、平行世界の妻との別れはクッソ適当で、しかも戻ってきてから妻が殺人者の可能性のある主人公に苦悩を抱くところとか全然描かれなくて、それがあのちょーどうでも良いテキトー推理で躱せるような書き方なのはホントに呆れたし、「全ての世界の君を愛す」に関してはもう失笑も出なくて、そんな雑な動機づけて全ての世界の君を愛せたら苦労しないよ。それができないのが平行世界の面白味であって最大障壁のはずなのに、なにお座なりにちっさいエピソードで乗り越えちゃってんの? 雑だよ。

単純に小説が下手だよなあ。地の文で老人が「僕」を使うことの苦しさに「は?」と思いながら読み始めるけど、最初のエピソードでなんの捻りもなく宝物がエアガンだったのはもう恐怖すら覚えた。ヒロインはちょっと小悪魔的だけど、アレって本質的には情報隠せばいくらでもひっくり返せるビックリ演出に過ぎなくて、ビックリの向こうに何を感じさせるのかが大事だったりするんだけど、別にそういうのないもんなあ。日常の謎っぽいもので全体を牽引したところで、それを物語のなかに適切に位置づけられなくて、「あー雰囲気だけね」って小説でございました。

デザート・フラワー

 

デザート・フラワー [DVD]

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いやー素晴らしい。ズバリ映画を観たって感じがする。

とにかくさあ、いちいち映画としてのつくりがしっかりしてるよね。スローモーションで見せるところはスローモーションで見せるし、クレーンするところはクレーンするし、いやあ、いちいち欲しいなあというものがちゃんと来てるのでメチャクチャ安心して観れます。

でまあ、そういうきちんとベーシックなところを抑えたからこそ出る演出が、この映画の最もナイーブなところである男性関係でキッチリ機能しているのが良いよなあ。あのヌードシーンの緊張感とその緩和、そこから一気の妄想シーンの飛躍の流れも最高なんだけど、それが説得力を持ったのはたった一度の出会いシーンの素晴らしさがあったからで、いやあ、色々映画観てダンスシーンも注目してますが、しかしこんなにロマンティックなダンスシーンってありました? いやあ、溜息出ますわ。

それでもって、映画の一連の流れがぐーっとラストの割礼に収斂していく構成も素晴らしいよね。カットバックを印象づけて、あの割礼クレーンが映画を支える支点になるんだもんなあ。

他にも、割れた地面の模様の美しさやガラス拭きジャンプカットなど、映画としての見所が満載。いやー、面白い映画観たってのは結構あるけど、良い映画観たっていうのはなかなかないので、大満足であります。